空気が締まって体の芯に冷えが届く。
吐く息は白い蒸気になって視界を曇らせる。
衣服の隙間から入り込む冷たい風に身震いしつつ、黄緑色に光る地平線を眺めながら暗がりの街を歩いた。
「なぁ、肉まん食わねえ?」
「俺おでん」
「やべえ、金あっかな」
「お前チャージしてねえの?」
夏はスナックのチキン一択だったのに、湯気立つものばかり選ばれるようになると、ああ、冬が始まったなって思う。
「矢野、お前何する?」
「あんまん」
「お前ほんっと甘いの好きだな」
あたたかい光、美味しそうな出汁の香り。
そんな誘惑に負けて、俺たちはまんまとコンビニへ吸い込まれていくのだ。
『冬のはじまり』
まだ始まってすらないのに
あなたと歩む人生を
勝手に終わらそうとしないで
『終わらせないで』
「親に感謝するのは当たり前です」
「ここまで育ててもらった感謝を伝える日ですよ」
「なんで素直になれないんですか?」
こちらが大人げないほど
親に反抗し続けていると
信じて疑わない彼女
その真っ直ぐな目に
私はたじろいで口を閉ざした
きっとこの子は親の愛情を一身に受けて
曲がらないよう丁寧に育てられてきたんだな
だから親との確執がある私が
ただ素直になれない大人にしか見えないのか
「それはとても良い親御さんね」
無理矢理口角を上げて目を細めた私に
彼女は笑顔で頷いた
この子と私は別世界を生きている
そう認識して傷つかないために心を遠ざけた
『愛情』
仕事から帰ると熱っぽくて
体温計で測ったらほんのちょびっと熱が出ていた。
でも明日はシフト上どうしても休めないから
気合いと解熱剤で下げて
翌日も出勤していた頃が懐かしい。
だからといって誰があの頃に戻りたいと言いますか。
体調不良で休める世の中になって私は嬉しいです。
『微熱』
すくすく育つ緑の春
灼熱の中見つめ返す黄色の夏
冷たい空気に穂を揺らす茶色の秋
眩しくて目を細める白い冬
『太陽の下で』