「そうだね、私ってホント馬鹿」
そう言って彼女は俯いた。サラサラとした長い髪が彼女の表情を隠す。隣に座る僕からは、簾のような髪のわずかな隙間から薄らとしか見えない。
伏せ目がちだから、彼女の睫毛が長く、上向きにくるんとカールしていることを初めて知った。細かく震える瞼に、睫毛がつられて揺れた。口角が下がり、口を硬く結んだ彼女が、ようやく悲しさややるせなさを感じた。
「こういう時ぐらい励ませ、馬鹿」
ぼんやりと彼女の輪郭をなぞるように見ていた僕に、声がかかった。見られていたのがバレたらしい。彼女は先ほどまでのもの悲しい雰囲気を一瞬で発散し、不機嫌そうな声を上げた。僕は掛ける言葉もなく、黙り込んだ。
彼女に訪れた不幸に、僕は喜んでしまったから。
『哀愁を誘う』
左右反転するけど真実を映す鏡
でも無意識のうちに
目には力が入っているし
うっすら口角は上がるし
フェイスラインがスッキリする角度に顔を傾ける
いや貴方
映え写真撮りたいわけじゃないのよ
コンタクトレンズ入れたいのよ
分かってるんだけど毎回同じことしてる
『鏡の中の自分』
目を瞑って貴方の姿を思い出す
今日話したことや一緒に食べたもの
一つ一つが幸せな出来事で口元が緩む
眠る前にこうやって思い浮かべていれば
きっと夢の中でも会えるよね
『眠りにつく前に』
何度生まれ変わっても貴方を愛す
一貫した永遠の想い
果たして私は貴方を
正々堂々愛せる立場と力を
持ち合わせているのだろうか
『永遠に』
ほんの少し開いた窓から
ひんやりとした涼しい風が入ってきた
壁一面の本棚にギチギチと
音が鳴りそうなほど詰まった本
テーブルの上に広がる読みかけの漫画
行き場がなく床に置いたお盆
香りの良いアールグレイティーにチョコレート
柔らかくも体を支えてくれるソファに埋もれて
体を伸ばして心地の良さにうっとりとする
好きな音楽を止めて
今度はモニターでライブDVDの再生
観ているうちにウトウトし始めて
次に目が覚めたときはどこからか分からなくなる
それも「まぁいいや」と片隅に追いやって
窓の外はいつの間にか暗くなっていて
そろそろ夕飯を作らなきゃと思いながら
またソファにしがみつく
好きな時間に好きな場所で好きなことをやり尽くす
ここが私の理想郷
『理想郷』