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「そうだね、私ってホント馬鹿」

 そう言って彼女は俯いた。サラサラとした長い髪が彼女の表情を隠す。隣に座る僕からは、簾のような髪のわずかな隙間から薄らとしか見えない。
 伏せ目がちだから、彼女の睫毛が長く、上向きにくるんとカールしていることを初めて知った。細かく震える瞼に、睫毛がつられて揺れた。口角が下がり、口を硬く結んだ彼女が、ようやく悲しさややるせなさを感じた。

「こういう時ぐらい励ませ、馬鹿」

 ぼんやりと彼女の輪郭をなぞるように見ていた僕に、声がかかった。見られていたのがバレたらしい。彼女は先ほどまでのもの悲しい雰囲気を一瞬で発散し、不機嫌そうな声を上げた。僕は掛ける言葉もなく、黙り込んだ。


 彼女に訪れた不幸に、僕は喜んでしまったから。

『哀愁を誘う』

11/5/2024, 5:03:09 AM