後悔だらけの人生で過去を振り返ると
今ならもっと上手くやれると錯覚してしまうけど
たとえ過去に戻れたとしても
同じ過ちを犯すに違いない
私はとても臆病で勇気ある一歩を踏み出せないから
分かっていても振り返って悶え苦しむ
きっと未来で同じ過ちを繰り返さないために
自分を戒めているんだと言い聞かせて
『過ぎた日を想う』
じっと夜空を見上げて
星と星を指でなぞって線で結んで
だんだん三番目に繋いだ星が動いて
「何だ飛行機じゃん」と笑い合った
深夜のコンビニ帰りの話
『星座』
とてもいびつで滑稽な
足がもつれて転びそうになる
可哀想で不憫なそんなダンス
アイツの手のひらの上で
一緒に踊られてみませんか
『踊りませんか?』
私には前世がある。現代日本とは程遠い、魔法が使える異世界で生活した記憶がある。
魔女になって悪巧みもしてなければ、魔法を使って世界を平和にした覚えもない。ただ日常的に誰でも使えるちょっとした魔法を、私も使うことができたのだ。魔法が使える以外は、至って普通な庶民の生活を送っていた。順調に大人へ成長し、お見合いして十七歳の適齢期に結婚して、子どもを三人授かって。孫を見る前に病気になり、家族に看取られた。そんな普通な人生を謳歌した。
私の夫だった人はまっすぐで堅実な男性だった。現代日本で言う商社マンというか、色々なビジネスを取り仕切る経営者として働いていた。そんな凄い人が田舎の小娘と結婚したんだから、私の故郷は大騒ぎだった。
夫だった人はこう言った。
「生まれ変わっても、君と僕は必ず巡り会う。ずっと一緒に幸せになろう」
聞いた当初はどこの作り話に影響されたのかと疑った。だって、生まれ変わった先なんて、今世の将来すらわからないのにわかるはずがない。
「あなたがもし人で、私が蜘蛛だったらどうするの?」
「蜘蛛の姿をした君を飼うよ」
「本当に見つけられるの?」
「見つけられるさ。だってこうして愛し合えた奇跡は、もう一度やってくるのだから」
何の確証を得て自信満々に言えるんだか。
私はクスクスと笑ってしまった。冗談を言ったつもりのない夫は、大変ショックを受けていたけど。
そして、私はこうお願いしたのだ。
「私、蜘蛛が苦手なので、あなたは蜘蛛にならないでくださいね」
「って言ったら逆に蜘蛛になると思ったんだけど」
「何だ、不満か」
「いいえ」
私はソファに深く腰を掛けて、ぼんやりと目の前のテレビを見た。ワイドショーでは最近巷を騒がせる物騒な事件を取り上げていた。
全然興味のない私は隣をチラリと見る。隣に座ってスマホをいじる夫と目が合った。夫がニヤリと笑った。
「有言実行したまでだよ」
「まさか、同い年とは思いませんでした」
「前は君が十七歳で僕が三十歳を過ぎていた。あの時は適齢期でも、今は犯罪だろう」
「歳の差夫婦に喧嘩売ってます?」
「歳が近いと感性とか文化とか。とにかく話が合って楽しいよ」
夫はそう言うとこちらに体を倒してきた。私はぐえっと変な声を出しながら、夫の体に潰された。夫がぎゅっと横から抱きしめてくるなんて、前では到底考えられなかった。
「そういえば、昨日病院へ行ってきました」
「そうだった」
夫は姿勢を正すと、今度は目に見えてオロオロし始めた。私がここ最近ずっと体調が悪かったことを心配していたらしい。前の時は病に侵され、夫よりも早くに亡くなったから。
私はスマホの画面を夫に見せた。夫の目が見開く。
「六週、だそうです」
ニッコリ笑う私とは対照的に、夫の目には涙が溢れていた。年齢も容姿も何もかもまるで違う人なのに、そんなところは一緒なのだと笑ってしまった。
よかった、あなたが蜘蛛にならなくて。
『奇跡をもう一度』
『巡り会えたら』
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お題まとめてすみません。
みっちゃんがいなくなった。ゆーくんも、あっちゃんも。みんな、いなくなった。
いつも四人で遊んでいた。みんなの家のちょうど真ん中にあるから、いつも公園に集まった。ブランコと滑り台と、なんかよくわからない丸くて大きくてたくさん穴の空いたもの。ボールを思いっきりけったり投げたりするには狭いけど、禁止されているわけじゃない。そんな広さの公園。公園に集まってはボール遊びや鬼ごっこをしていた。
最初はみっちゃんからだった。
かくれんぼしようとみっちゃんが言い出して、私たちがそれに乗っかった。鬼はじゃんけんで負けた私だった。
目を瞑って、大きな声で数える。
いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅー!
もーいーかい!
まーだだよ!
何度もやりとりを繰り返して、返事がようやく「もーいーよ」になった。私は目を開けて、みんなを探し始めた。
木の影にかくれたゆーくんは、すぐに見つかった。木が登れないから影にかくれていたらしい。顔を真っ赤にして照れていた。
次にあっちゃんを見つけた。あっちゃんは滑り台の頂上でしゃがんでいた。公園の中だとかくれる場所がなさすぎて、時間がかかったって。
あと一人、と思ったところで二人が帰ると言い出した。
「まだみっちゃんが」
「みっちゃん? だれ?」
「最初から三人で遊んでたじゃん」
二人は不思議そうな顔をして「変なの」というセリフを言って帰っていった。私はその場で立ちつくしていたけど、みっちゃんを見つけて早く帰ろうと思って公園中を探した。
みっちゃんはいなかった。
親に聞いても、他の友達に聞いても、先生に聞いても。みっちゃんのことを知っている人がいなかった。私は学校帰りに必ず公園へ行って、みっちゃんを探した。遊具の中も、生け垣の影も全部すみずみまで探した。それでもみっちゃんはひょっこり現れることもなかった。
次また三人で公園に集まった時、かくれんぼしようと言われた。ゆーくんだった。私は前回のことを思い出してイヤな気持ちだったけど、断れなかった。
三人でじゃんけんして私がまた負けた。公園の真ん中で目を瞑り数を数える。
いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅー!
もーいーかい!
まーだだよ!
返事が「もーいーよ」と帰ってくるまで繰り返した。そして、返事をもらった私は目を開いて歩き出す。もーいーよの声が一人分しか聞こえなかったことが気になったけど、きっとイジワルされてるだけだろうと思った。
あっちゃんがすぐ見つかった。生け垣のところに体を丸めていた。あっちゃんは立ち上がって砂をはらいながら言った。
「やっぱり二人でかくれんぼはないか」
「え?」
私があっちゃんを見つめても、あっちゃんはあははと笑うだけだった。
私は毎日公園へ通ってみっちゃんとゆーくんを探した。これだけ探したのに見つからないのはおかしい。でも二人とも早く帰ったわけじゃない。二人は学校も来てないし、机もいつの間にか無くなっていた。そして、二人のことを誰も覚えてないのだ。
二人を探した帰り、ゆーくんママとばったり会った。「こんにちは」と声をかけたら、ゆーくんママは不思議そうな顔をして「こんにちは」と言った。
「ゆーくん、元気ですか?」
私が笑顔で言うと、ゆーくんママは眉を下げた。
「ゆーくんってあなたのお友だち? 誰かと間違えてないかしら」
ゆーくんママはそそくさと帰っていった。私はその後ろ姿を眺めているだけしかできなかった。親ですら、子どものことを忘れてしまうんだと思った。
じゃあ何で私は覚えているのだろう。
いつもの公園で、あっちゃんと二人きりのかくれんぼをすることになった。鬼はじゃんけんで負けた私だ。いーち、にー、と数えながら考えることは、いなくなった二人のことだ。
どうしていなくなったのだろう。
どうして誰も覚えてないのだろう。
どうして私だけ覚えているのだろう。
グルグル頭の中で考えて、ふとかくれんぼ中だったことを思い出した。私は大きな声で叫ぶ。
「もーいーかい!」
私の声は公園じゅうに響き渡った。そして、しんと静かになった。
「もーいーかい!」
もう一回、今度はもっとたっぷり息を吸って大きな声を出した。それでもあっちゃんは、返事をしてくれない。
私は勝手に動き出し、あっちゃんを探した。木や生け垣の影、滑り台の頂上、丸い遊具の中。
誰もいない。どこにもいない。
公園には私一人しかいない。
私は公園の真ん中で一人しゃがんだ。一体何が起きたのだろう。ただ公園でかくれんぼしただけなのに、みっちゃんも、ゆーくんも、あっちゃんもいなくなった。私はさみしくて泣いた。
「泣かないで」
どこからともなく声が聞こえた。子どもの高い声だった。
「みんなここにいるから、泣かないで」
「ここってどこ? どこにもいないよ」
私は顔を上げて周りを見渡した。誰もいない、静かな公園しか広がっていない。
「ここだよ、ほら、おいで」
私は立ち上がり、声のする方へ歩いた。丸い遊具の中だ。中に入ると、たくさんの穴から外の光が入ってきている。
「光っている穴へおいで」
私は声に従って光る穴を探した。光る穴はすぐ見つかって、手を伸ばせば届きそうな高さにある。私はとっさに手を伸ばした。光の枠に触れると、そのままみるみる吸い込まれていく。
「あーあ」
最後に聞こえたのは呆れ声だった。
『たそがれ』