ぐずぐずして朝寝坊するし
勢いよく朝食を食べて口の中やけどするし
眉毛はバランスよく書けないし
慌てて家を出て駅まで走るし
通勤電車は遅延するし
飛び乗った電車は逆方向だし
何とか会社に来ても社員証忘れてたりするし
席に着けば上司に
「あれ、今日リモートだったよね?」
って聞かれて全身血の気が引くし
いつもお昼に食べるランチが売り切れてるし
午後の眠気と低血糖との戦いに負けるし
収拾つかなくて一時間残業するし
電車のせいで目の前の人に二回窓ドンするし
帰宅してから買い忘れに気がつくし
キャベツこぼしただけで泣きそうになるし
湯船でウトウト半分寝るし
早く寝ようと思っても結局日は跨ぐし
寝落ちしないと決めても結局寝落ちするのだ
『きっと明日も』
一人の時間は静かだ。
閉店間際の夜の時間帯は、お客様が駆け込まなければしんと静まり返る。日中は人で賑わっていて、店内の音楽はまともに聞こえないけど、夜はハッキリと聞こえる。月が変わった影響か、十月のイベントに合わせてハロウィン風の音楽が軽快に流れていた。
まあ、今日は何の不具合か音楽すら流れていないけど。
音楽がないと不気味で気がそぞろになってしまう。特に今日は音楽が流れていてほしかった。
先程まで早番だった同僚の愚痴を聞いていた。この同僚は気に食わないことがあると一日中ああだこうだ愚痴ってくる。
私はいつもちゃんと聞いているポーズをとって、相槌を打って、でも同調して何も言わないようにしている。不満があるのはお互い様だから、言い出したらキリがない。
それに、同僚は誰にでも愚痴を言う。隣の売り場の人にも、愚痴にしていた相手にも。
口の軽い同僚に、弱みを握られるわけにはいかない。そう気持ちを奮い立たせて、言いたいことを腹の中で堪えて頷いていた。
私は、人から愚痴を聞いた時の、この胸に溜まったモヤモヤをどう処理すれば良いのか分からない。同僚が帰って一人になると、胸に溜まったモヤモヤが込み上げてくる。とても不快で、苦しくて、居心地が悪くて、息がしづらくなる。何度も深呼吸しては「いなくなれ」と吐き出した。それでも吐ききれない何かが残っている。
私はその残骸を誰かに聞いてほしい反面、相手にこのモヤモヤを移す勇気がない。相手にこの不快感を味わってほしいわけではないから。
今日も一人静かな時間を、深く呼吸してやり過ごすしかない。
『静寂に包まれた部屋』
「最期に言い残すことはあるか」
「……あなたに出会えてよかった」
「そうか、俺は最悪だ」
君の胸に赤い花が咲いた
『別れ際に』
「虹が見えるまでもうすぐかな」
待ち遠しそうに君が言う。俺はチラッと時計を見た。十六時五十分。通り雨とはいえこの頃日没が早いから厳しいかもしれない。
雨は君の思惑とは違い、十八時過ぎまで降った。すっかり辺りは暗くなっていて、虹なんて現れる気配はない。
「ねえ見て」
君が窓の外を指差した。釣られて目を向ければ、丸々とした月が大きく輝いている。
「月が綺麗」
うっとりと月を見上げる君の横顔。俺は月よりも君にずっと見惚れていた。
『通り雨』
外に出てみれば
澄み切った空気を肌で感じる
少し大袈裟に深呼吸していると
頭に何か当たって視界が歪んだ
足元が覚束なくなってるうちに
木の葉を踏んで滑って転んだ
尻餅ついた後ろ手でつるりと何か触って
摘んで見ればどんぐりだった
銀杏じゃなくてよかったと
心からホッとした秋のある日の話
『秋🍁』
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※フィクションです