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 一人の時間は静かだ。
 閉店間際の夜の時間帯は、お客様が駆け込まなければしんと静まり返る。日中は人で賑わっていて、店内の音楽はまともに聞こえないけど、夜はハッキリと聞こえる。月が変わった影響か、十月のイベントに合わせてハロウィン風の音楽が軽快に流れていた。

 まあ、今日は何の不具合か音楽すら流れていないけど。

 音楽がないと不気味で気がそぞろになってしまう。特に今日は音楽が流れていてほしかった。

 先程まで早番だった同僚の愚痴を聞いていた。この同僚は気に食わないことがあると一日中ああだこうだ愚痴ってくる。
 私はいつもちゃんと聞いているポーズをとって、相槌を打って、でも同調して何も言わないようにしている。不満があるのはお互い様だから、言い出したらキリがない。
 それに、同僚は誰にでも愚痴を言う。隣の売り場の人にも、愚痴にしていた相手にも。
 口の軽い同僚に、弱みを握られるわけにはいかない。そう気持ちを奮い立たせて、言いたいことを腹の中で堪えて頷いていた。

 私は、人から愚痴を聞いた時の、この胸に溜まったモヤモヤをどう処理すれば良いのか分からない。同僚が帰って一人になると、胸に溜まったモヤモヤが込み上げてくる。とても不快で、苦しくて、居心地が悪くて、息がしづらくなる。何度も深呼吸しては「いなくなれ」と吐き出した。それでも吐ききれない何かが残っている。
 私はその残骸を誰かに聞いてほしい反面、相手にこのモヤモヤを移す勇気がない。相手にこの不快感を味わってほしいわけではないから。
 今日も一人静かな時間を、深く呼吸してやり過ごすしかない。



『静寂に包まれた部屋』

9/30/2024, 8:18:53 AM