空は戦利品である。
陽光の奇襲に惑わされた夜は、泣く泣く月を背負い星々をかき集めて自らの国へ引っ込んだ。
皆いなくなった空を見渡し太陽は満足げに宣告する。
「これより朝の始まりである」
世界の隅々まで輝きを放ち続ける太陽は一日の間に活力を使い切り、みるみる老いていく背中に夕闇がロープを掛けて海の深みへ引きずりこむ。
夜はまたじわりじわりと空へと手を伸ばし、星をばら撒いて自らの領土を主張する。
入れ替わり立ち替わり、誰のものでもない場所へ挑み続けるもの達のおはなし。
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あいまいな空
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所感:
夕焼けも朝焼けも好きですが、嵐の雲が一番好きかもしれません。
泣き笑いの顔で、でもこちらに向いた視線は真剣で。
それでいて優しく声をかけてくるから戸惑った。
何もかもちぐはぐ。だから目が離せなかった。
色変わりする最中のアジサイのように見えたんだと、初対面の印象を伝えられたのは何年も経ってからだった。
何、それは褒めの領域?と君は曖昧に笑った。
褒めようとしたわけじゃなくて、ただ、僕にとって君はずっとあの花のような存在だった。それを伝えておきたかっただけなんだ。
笑う、花のような君に。
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あじさい
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所感:
空色のアジサイが好きです。
「どうでもいい」が一番困ると彼は言った。
自分のことを好きか嫌いかハッキリ教えて欲しいと。
選択を迫られるのが一番困ると彼に返した。
好きか嫌いかで二分できる世界に生きてはいないと。
好き嫌いができるほど、神の暮らしは楽じゃない。
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好き嫌い
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所感:
敢えて選べと言われると世界が滅ぶけど、良い?
鋳物の街とか餃子の街なんて呼び名で、地場産業や特産品をアピールすることってよくあるじゃん?
故郷はお菓子の街だったって言われて、誰が本当にお菓子でできた街並みを想像するかって話だよ。
彼女の両親に挨拶すべく訪れたのは、地方の山奥の小さな盆地で、街全部が本物のお菓子だった。
黒いローブに大きな杖をついて現れた老婆を見ながら、僕は「あなた、ヘンゼルっていうの?いい名前ね」って褒められた、初対面の過去を何故か思い出していた。
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街
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所感:
あるあ…ないな。
やりたいことを紙に書き出していくと実現するとか、実現しやすくなるとかいうライフハックあるでしょ。
あれ。数年間ハマってたんですよね。
毎年お正月特有のやる気モードで、おろしたての手帳にずらっと百個、やりたいことをリストアップして。
実現すると色ペンでカラフルにマークアップしたり。
でも去年ちょっとした事が起きて、やめました。
ある日、夜中に妙な物音が聞こえてきて(空き巣…?)と思いつつそっと薄目を開けて部屋の様子を見たら、机の上で白い小人が輪になって踊ってたんです。
僕の手帳を囲んで、小さい声で何か歌ってる。
心霊現象とかあんま信じてない方でしたけど、なんか見ちゃいけないものを見てしまった気がして、ぎゅっと目を閉じて知らんふりしました。
気付いたらもう朝のアラームが鳴ってて。夢だったのかなとか思いながら机の上の手帳を改めてみたら、やりたいことリストのページが妙なことになってて。
リストの最後に、一行足されてたんです。
「殺す」って。
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やりたいこと
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所感:
誰だよ!誰がだよ!誰をだよ!