奇数月、2週目の金曜夜9時、マンション住民交流会。
最近はいろんな国から来られた方が暮らしているから、お互いの文化を理解しあってより円満なご近所付き合いをしたいですね、という管理人と住民組合両方の意向で去年から始まった。
ま、ミーティングってよりは飲み会。
組合費の予算で飲めるし、勿体無いので毎回出てる。
縁もたけなわ、「実は一周まわって夜明け前が一番テンションあがるんです」と隣室の吸血鬼がふと呟いた。
夜が活動時間ですよね?ときいてみたら「人間さんだって、毎朝『よーし朝だ!今日も一日頑張るぞ』って方ばかりじゃないですよね」と返された。
そうだよな、そこは個体差大きいわ。
「朝日の温もりはたまに懐かしいですけどね」
って、柿ピーを真っ赤なワインで流し込みながら、彼は苦笑いしてた。
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朝日の温もり
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所感:
むむむ。
分水嶺ではないの。
回帰不能点、point of no returnでもない。
ここは、ただの、分かれ道。
あなたの左手と右手に見えているどちらの景色を選んで進んで構わない。そこら辺でロバの背中でも撫でながら気が済むまで立ち止まっていても構わない。
もし歩いてる途中で気が変わったら、ここまで引き返して別の道に行くのだって、もちろん構わない。
でもね一つだけ忘れないで。
あなたが首に下げている砂時計に気をつけて。いくら振っても逆さにしても、その砂のこぼれる向きは変わらない。全部落ちたらそれでおしまい。
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岐路
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所感:
そんな言葉にたらし込まれて遥々引き返すあいだにすっかり季節は巡り、記憶にあった緑の丘は吹雪の荒れる雪原へと姿を変えていましたとさ。
まさか世界の終わりに君と殴り合ってるなんてね。
カウントダウンまでシェルターの中で暇をかこっていた僕たちが偶然見つけた、どこに繋がってるのかも分からないシューター。
ライト片手に滑り降りてみた先には、コールドスリーブ装置付きの緊急脱出ポッド。
───定員一名。僕らは二人。
君は、問答無用で僕をのしちまえば、ポッドに押し込んで脱出させてやれると考えてる。それは分かってる。
さらに君は、僕が一人で逃げるために自分を殺そうとしているんだとも思い込んでる。僕はそれも分かってる。
そして僕は、君が願っているのと同じように「僕は君を脱出させたい」と願っていることには何も気づかれていないってのも分かってる。
世界の終わりまであと五分。
こんなに儘ならない最後は予定外だったなぁ。
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世界の終わりに君と
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所感:
誰も助からないエンドに一票。
数歩、階段を昇っては振り返る。
通り過ぎてきた跡を確かめて、また、昇る。
あと何段で次の踊り場に着くか、先は数えてない。
下りの階段。先に段を数えてから足をおろす。
あと何回踏み出せば下の階に着くかずっと計算する。
そんな感じで毎日恐る恐る生きていると、案外なかなか最悪の事態はやってこない。
未来も人も、良いように先読みしての期待はしない。
だから失望するということがない。
反対に悪いほうにはせっせと頭を働かす。
間違え、失敗し、壊し、病み、逃げ出す可能性。
誤解され、脅かされ、排斥される可能性。
何よりも、予想のつかないことが起きる可能性。
毒矢一本を避けたところでまた次の矢は飛んでくる。
そんな考えをしていると、たとえ人生のどん底に居ても「まだ地獄までは落ちてない」なんて思ってしまう。
本当は、こんな生きかたそのものが最悪だろうよ。
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最悪
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所感:
まあ、生き方として、最低ではない。
言っちゃ駄目って決まりはないよ。
ただ、後が面倒だから黙ってるだけで。
だからほら、葉を隠すなら木の枝に、木を隠すなら森の中に、なんて言ってるといつの間にか嘘と秘密まみれのジャングルが生まれたりする。
そしたらもう終わりだよ。
森は隠せないからナパーム弾……ってなるじゃん。
無かったことに、じゃなくて全部無くすんだよ。
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誰にも言えない秘密
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所感:
秘密なんて「ある」と思われた時点で秘密じゃない。