まさか世界の終わりに君と殴り合ってるなんてね。
カウントダウンまでシェルターの中で暇をかこっていた僕たちが偶然見つけた、どこに繋がってるのかも分からないシューター。
ライト片手に滑り降りてみた先には、コールドスリーブ装置付きの緊急脱出ポッド。
───定員一名。僕らは二人。
君は、問答無用で僕をのしちまえば、ポッドに押し込んで脱出させてやれると考えてる。それは分かってる。
さらに君は、僕が一人で逃げるために自分を殺そうとしているんだとも思い込んでる。僕はそれも分かってる。
そして僕は、君が願っているのと同じように「僕は君を脱出させたい」と願っていることには何も気づかれていないってのも分かってる。
世界の終わりまであと五分。
こんなに儘ならない最後は予定外だったなぁ。
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世界の終わりに君と
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所感:
誰も助からないエンドに一票。
数歩、階段を昇っては振り返る。
通り過ぎてきた跡を確かめて、また、昇る。
あと何段で次の踊り場に着くか、先は数えてない。
下りの階段。先に段を数えてから足をおろす。
あと何回踏み出せば下の階に着くかずっと計算する。
そんな感じで毎日恐る恐る生きていると、案外なかなか最悪の事態はやってこない。
未来も人も、良いように先読みしての期待はしない。
だから失望するということがない。
反対に悪いほうにはせっせと頭を働かす。
間違え、失敗し、壊し、病み、逃げ出す可能性。
誤解され、脅かされ、排斥される可能性。
何よりも、予想のつかないことが起きる可能性。
毒矢一本を避けたところでまた次の矢は飛んでくる。
そんな考えをしていると、たとえ人生のどん底に居ても「まだ地獄までは落ちてない」なんて思ってしまう。
本当は、こんな生きかたそのものが最悪だろうよ。
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最悪
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所感:
まあ、生き方として、最低ではない。
言っちゃ駄目って決まりはないよ。
ただ、後が面倒だから黙ってるだけで。
だからほら、葉を隠すなら木の枝に、木を隠すなら森の中に、なんて言ってるといつの間にか嘘と秘密まみれのジャングルが生まれたりする。
そしたらもう終わりだよ。
森は隠せないからナパーム弾……ってなるじゃん。
無かったことに、じゃなくて全部無くすんだよ。
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誰にも言えない秘密
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所感:
秘密なんて「ある」と思われた時点で秘密じゃない。
僕は外に出られない。
この狭い部屋ひとつが僕の居場所。
窓はいつも外から勝手にブラインドがおろされる。
壁は頑丈な割に薄いので騒音が素通しで辛い。
しかもここは屋上階らしく、暑さ寒さの差もひどい。
居心地最悪な空間に閉じ込められて、もう十数年。
初めは自分がここに居る理由が何も分からずに恐怖と苛立ちに駆られて泣き叫び、獣のように暴れていた。
けれど年月をかけ窓越しに学びを施された現在、諦念と怠惰によく馴らされ、日々静かに時間を喰んでいる。
今、僕が知ってるのは、この部屋が存在するこの世界と自分自身の運命とが完全にリンクしているってこと。
僕の死、イコール、世界の死。なんてこった。
だから僕は静かに、大人しく、できる限り密やかに生きることを決めた。勇壮な冒険者の気質なんて端から持ち合わせちゃいない。
何もしないことで世界が、そう、僕を受け入れてなお毎日を真剣に楽しく生きている君の命が救われるなら、僕は喜んでこの無為徒食の日々を受け入れる。
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狭い部屋
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所感:
ラノベでありがちなテンプレタイトルより。
「転生したら知らない奴の脳髄だった件」
失恋したことがないって人に、これまで3人会った。
実った初恋そのままに結婚して、子どもが巣立ってからも毎年夫婦で旅行に出かけてるおじいさん。
ずっと告白されたことしかなくて、今はそのなかから一番相性良いだろう一人を割り出し中のおねえさん。
人を好きになったことも人から好きと言われたこともない、失うことのできる恋をまだ持ってないあなた。
こうしてみると、人それぞれなんだけど。
羨ましいとも羨ましくないとも、絶妙に微妙。
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失恋
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所感:
失恋してばかりというのはあまり羨ましくないので、適正な量、回数の範囲内での経験に留めておきたい。