僕は自分自身のことを嘘つきだと理解しているんだが、実際のところ嘘つきではない。これは嘘じゃない。
どういうことかと云うと、周りの人間が誰も僕に嘘をつかせてくれないのだ。ああ、これは嘘をついてもすぐばれるという意味ではなくてね。
そもそも、だ。
未だかつて僕は、有効な会話が成立する人間関係を築けたことがない。そしてたとえ僕が何を話そうと、それが真実だろうが虚実だろうが一切の言葉は聞き流される。
つまり、僕の言動は全くの空虚ってことだ。
……と、正直な話をしてるんだが。聞いてる?
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正直
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所感:
相手のない嘘はないのです。
TVで梅雨入りのニュースが流れると、リビングにいる者全員で誕生日の歌を合唱するのが、毎年この時期だけの家族のしきたりだ。
(ずっとそれで育ってきたもんで、よその家ではニュースを見ながら急に歌い出さないのが一般的らしいと気付いたときはちょっとビックリした)
Happy birthday to you,
Happy birthday dear こうめちゃん
Happy birthday to you!
うちの小梅ちゃんはもう随分なおばあちゃん犬ながら元気いっぱいにご飯も散歩も毎日満喫してる。ただ、天気の悪い日だけは絶対に散歩拒否で、リビングのクッションに丸まって一歩も動かない。
そんなとき、父はわしわしと小梅を撫でながらいつも「小梅のおうちはここだよ」と優しく話しかける。
昔々。長雨で増水した河川敷からびしょ濡れの子犬を拾ってきたのは母で、「梅雨にやって来たから小梅だ」ってざっくりと命名したのが父。
翌年に、正確な誕生日は分からないから梅雨が来たら祝うことと決めて以来、今、20回目のファミリーミュージカルを小梅ちゃんは尻尾ふりふり鑑賞中というわけだ。
わりと上手な三声合唱をBGMに、我が家の茶色い天使は眠そうな目をしている。最後は露骨に欠伸もしたが、つまりアルファ波が出るほど癒されてくれていると好意的に解釈したい。
今年はあっという間に猛暑が来そうって予報も出てたから、晴れたらまたいっぱいお散歩しようね。
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梅雨
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所感:
♪はっぴばーすでー つーゆー
「ピカデリーサーカスにある老舗百貨店の最上階で優雅にアフタヌーンティー、それが貧乏旅行を飾る唯一のハイライトになるはずだったのに。
どうして私は湿っぽい路地裏で、石畳にぐらつくヒールと密かにバランスゲームしながら下手なナンパに付き合ってあげているんだろうって、静かに悩んでた。
『天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは…』だなんて、目の前の青年は英国紳士の流儀をかなぐり捨ててぐいぐい迫ってくる。
時間も押していたし、大声の一つでもあげてピシャンと断ってやれば良かったのに何故かそうしなかったのよ。
でも」
と祖母は言葉を切って、にっこり微笑んだ。
「もし私があそこで彼を追っ払ってたら、貴方のお母さんはこの世に生まれてなかったでしょうね」
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天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
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所感:
運営さん、ちょっと落ち着いて?
このお題は流石に書き出しづらい。
英語版のお題とスイッチしようかな。
と思ったら!
英語版のお題も「I don’t want to talk about the weather. What I want to talk about is…」で同じ内容だったというオチ。
膝を壊してから、全力では走れなくなった。
日ごろ杖や車椅子を使ってはいないけれど
電車は駆け込めないから来るまで待つし、
信号はたとえ目の前で点滅しても走らない。
ま、これも一種のスローライフと思えば。
ゴジラだとかウルトラマンだとか、怪獣の
出てくる映画を観たりしたときは少しだけ
「ああ、これは絶対逃げきれないや」と
本当に少しだけ、がっかりする。
がっかりした夜の次の朝にははたいてい、
ブンブン自由に空を飛ぶ夢で目が覚める。
夢だけは自由な自分に、一番がっかりする。
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ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。
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所感:
逃げるように、じゃなくて逃げたいのに。
悪いことをしたら、ごめんねという。
そういうものだと教わった。
だから、悪いことをしでかしたときに
「ごめんね」と声をかけたのだけど。
「軽いよね。口先ばかり」となじられた。
とりあえず謝るのでは駄目らしい。
まだまだ人間は難しい。
人間らしく振る舞えなくてごめんね。
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「ごめんね」
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所感:
異星人だったりロボットだったりAIだったり。