半袖のシャツの釦を二つ開け夏に繰り出す放課後の君
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半袖
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所感:
たまには短歌
はいといいえ、簡潔な正答だけを選んで生きることに慣れきった一部の人間の精神はしだいに先鋭化し、彼らは地上の全てを二元化することに躍起になった。
曖昧な状態のまま物事を放置するのは許されない。
グレーゾーンなど一切存在してはならない。
中道とは思考を放棄した怠惰の言い換えだ。
最終的に彼らは世界も天国と地獄の二つに分けた。
善き人の住まうところはすなわち地上の楽園であり、そうでない者が居る場所は地獄であり、例外はないのだ。
国境をひき、延々と続く城壁を築き、鉄条網と電気柵で厳重に防護し、一つだけ連絡用の出入り口を付けた。
そこを塞ぐのは重々しい引き戸であった。
何ということもない。扉の裏表まで天国と地獄の所有に二分すると決めたものだから、開き扉では開け閉めのたび境界侵犯になると、もっともな指摘があったのだ。
どちら側の地に立っても城壁は同じように見える。
出入り口は立派な彫刻で飾られており、戸の上は両面に銘文が刻まれている。
この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。
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天国と地獄
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所感:
ダークサイドのメーテルリンク。
夜空の月には最早願いを託せない。
太古、私達の遠い遠い祖先が既に
月へ願いを告げたのだ。
「伸ばした指先さえ見えぬ真っ暗な
夜を生き延びるための光が欲しい」
その願いに応えて今も地上を照らす
月の優しさにこれ以上何を求める?
身勝手な望みは白い光を燻ませる。
卑小な欲はあの輝きに釣り合わぬ。
私達はただ祈るのみ。
美しい白銀の月光よ、永遠なれと。
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月に願いを
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所感:
我勝ちに飛んでくる80億の願いを聞くなんて
どれほどの慈悲深さと忍耐力かと。
ここは雨の星です。
一年じゅういつでも雨が降っています。
たまに雨が止むと誰もが困ってしまいます。
「あら嫌だ、肌が乾いちゃう」
「乾く前に洗濯物取り込まないと」
俄かな日差しに照らされ、道行く生き物は大慌て。
露店で買った濡れ合羽を頭からかぶり、服の中から足元までびしゃびしゃと水をしたたらせながら家路を急ぐ姿は、街のあちこちで見られる光景です。
地球から来てすぐは、慣れませんでした。
皆と違って全身皮膚呼吸はできないし、まとわりつく湿気はただ体を重く感じさせるだけで。
けれど素敵なことだってありました。
空に3つかかる太陽の軌道と、星の大気組成の絶妙なバランスによって、見渡す限りのあちこちにいつでも虹が浮かんでいるのです。
今じゃすっかり、この美しい輝きと共に暮らせるのだから降り止まない雨も良いものだと思っています。
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いつまでも降り止まない、雨
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所感:
雨、好きです。
10年前の私へ
未来からの手紙だなんて驚きましたか?
(そもそも差出人不明の手紙なんか読まないけど)
学校のこと、友達のこと、家族のこと、将来のこと、
どれも一人では解決できなくて不安ばかりですね。
(…と書いておけばどれかは心当たりがあるよね)
でも安心して。10年後まで続く悩み事はないから。
(それどころじゃない新たな問題が山積みだよ)
なんて、信じられないかもしれないけれど。
(今の毎日の崖っぷち加減のほうが信じられない)
ともあれ、心を強くもってただ生き抜いて。
(……としか言いようがない)
10年後の私より
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あの頃の不安だった私へ
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所感:
あのさ、輝かしい未来ってどこで売ってんの?