好きで好きでしかたなくて
だいじにしまっておいたら
見る影もなく腐れ果ててた
大切なものほど駄目になる
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逃れられない呪縛
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所感:
これはもう、そういうものなのだと。
最新の科学によれば時間の不可逆性は随分揺らぎだしているようだけど、平凡で平穏な日常を生きる僕にとって
時の流れは常時一方通行でしかない。
朝、昼、夜。
昨日、今日、明日。
生まれる、生きる、死ぬ。
※但し起きている間に限る
そう!この米印は実にいい仕事をしてくれる。
目を閉じて眠ってしまえば「限らない」。
夢の中、まるで魂の象徴みたいにカチコチと冷たい音で秒を刻む大時計の針を引っこ抜き、槍投げよろしく振りかぶって未来の背中を狙い撃つ。
想像力で動く世界は好いね。一発必中さ。
晴れて僕は明日とさよならして、麗しくも愉快な昨日と再会の杯を酌み交わす。何度だって、いつまでだって。
君が生きていた昨日に、君が生きている昨日に、どうして別れが告げられるものか。僕は僕の残りの人生のきっかり半分、こうして君に会いに来るよ。
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昨日へのさよなら、明日との出会い
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所感:
そう簡単にさよならできるはずもなく。
それに明日は明日で、出会った瞬間「今日」になってしまうから、永遠に触れ合えなくて切ない。
透明な水だとしても。
水面に誰かが触れれば(あるいは春風の精の優雅な瞬きひとつにさえ)世界は一瞬で砕け、波紋は揺らぎ続ける。
沸騰したときぐらぐらと沸き立つ湯気は、空にほどけるまでの束の間、真っ白にみえる。
それに凍らせる前に丁寧に手間をかけてやらなければ、氷の内側は無数の泡を抱え込み霞んでしまう。
ならばどうすれば透明なままでいられる?
誰にも触れず触れさせず、あらゆる干渉を断ち、純粋無欠の精神を保ち続ける術はあるか?
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透明な水
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所感:
ないだろうなあ。
限りなく透明に近い何か…は、やはり透明ではなく。
その「あなた」って誰のこと?私?
周りが何を考えているか分かんないけど、他人が求めてくる理想通りに生きる義務も義理もないよね。
勝手に期待して、好きに批判して、一方的にがっかりして、知らないうちに消えてくれれば良いんだけど。
せめて石とか毒矢を投げないでくれれば。
それで?
私にとっての理想のあなた?
ん…うん。
いいよ。そのままで、いい。
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理想のあなた
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所感:
余分な期待をしないのと未来を諦めるのは
同じじゃない、どころか全く違う。
気付かなければ良い。
正月に電話したっきりの母親も、
卒業以来会ってない教授も、
結婚式場で並んで写真を撮った同級生も、
先週ミーティングしたプロジェクトメンバーも、
退職届を破り捨てたあのクソ元上司も、
小学生の頃一番よく遊んだ友達も、
先週スーパーで会釈してくれた店員さんも、
今朝、いってらっしゃいと微笑んだ君も。
誰も、僕に気付かないまま居てほしい。
僕はといえば、バイクから投げ出され身体が空を舞ったこのほんの一瞬の間に、人生の走馬灯を見たよ。今まで出会った全ての人々の姿を、その笑顔を眺め、スクリーン越しに皆へ順繰りにさよならと声をかけたよ。
これでもう十分だ。
急だったけど自分の心だけは何とか片付けられた。
だから今は僕自身のことじゃなくて、残していく君のほうが心配だ。これが心残りというものなんだね。
僕の不在に気づくのが少しでも遅く、報せは最大限の穏やかさと共に、衝撃はできるだけ軽くなりますように。
突然の嵐が君の魂を吹き飛ばしませんように。
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突然の別れ
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所感:
別れを告げる側にとっても、突然の瞬間。