何ひとつ余すことなく、なんぴとたりと取り残されることなく、この世の全てがつつがなく穏やかに終わりを迎えられますように。
どうか。
どうかどうか、私も。
明日世界と一緒に消えてしまえますように。
何物をも迎え入れずに生きてきた私は、果たしてこの世に居ることを誰に認められているというのでしょう。
ああ、まさか全てが消え去ったあとにただ一人残されて、自分がこの世界の構成員ではなかったなんて今さら知らされたくなどないのです。
あるいは。
この空も、この街も、道行く人々も貴方も。
全部ぜんぶ私の生きる世界ではなかったのなら、そう、皆、どうぞご無事で。変わりない日を生き延びて。
何もかも明日になればわかること。
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明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。
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所感:
理詰めで考えると願いなどなかったのだけれど、そこからもう一段考えた結果がこれ。
結局、何かしら、希望が欲しいのだ。
同情、相槌、さしすせそ
「さぞ辛かっただろうね」
「仕方ないこともあるさ」
「好きに言わせておきなよ」
「正解なんて人それぞれ」
「それは大変だったね」
刺される、相槌、さしすせそ
「先にこっちの話、いい?」
「しらないよ」
「済んだ話でしょ」
「責任感ないね」
「それで?」
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Sympathy
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所感:
どうしたって分かり合えないものだからこそ、人は他人の気持ちを想像し続けて生きていく。それでいいと思うし、そうするしかないのだ。
「恋心と心拍数は連動しててもいいよね?だとか人体の構造を雑に決めた神を必ず探し出し息の根止めてやる」
よく分かんない理屈だけど、そんな決心をしたのは私の曾々々々々祖父、つまり七代前のご先祖様だ。
名前は弥五郎。レトロだよね。
我が家に伝わる話では、その(略)じいちゃんと彼の嫁さん、(つまり私の曾(略)祖母)は二人相思相愛の仲だった。
毎朝毎晩毎分毎秒、じいちゃんの顔を見る度にときめいてやたらドキドキしていたばあちゃんの心臓はすっかり弱ってしまい、子供を産んですぐに心臓が止まって死んでしまったのだそうだ。
で、恋女房を不意に亡くしたじいちゃんは、その悲しみを怒りへまるっと転換して「神殺し」なんて大それた計画をぶち上げて……本当に神の国まで行ったって。
神の首根っこ引っ掴んで剣を突き立てたまでは凄い。まるで物語の主人公だよ。でもさ、そう簡単に死なないしやられた分だけやり返すのが神様って奴だよね。
七代前のとんだご先祖様のおかげでうちの一族は、どれだけ好きな相手にも一切心がときめかないなんて、わりと通好みな感じの呪いを受けてしまったんだ。
ねえ。
好き。
心の底から大好き。
愛してる。
やっぱり伝わりにくいかな。
何言っても、何言われても、顔色ひとつ変わらない無愛想だけど、貴方のことを思っているのは本当だよ。
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「心と心」
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所感:
ドキドキしているのを好きだと勘違いするのが、吊り橋効果でしたっけ。
僕はキリンの背中に座り、セイウチ(かアザラシかトドか分からないけれど、とにかくそっち系の仲間の生物)のコロニーをゆったりと掻き分けながら、夕暮れの寂れた商店街を通りぬけようとしている。はげしく設定のバグった世界だ。
体感的には旅を始めて1週間ぐらい過ぎたような気がするけど、いつまでたっても夕日は沈まないし、商店街はどこまでも続いている。よくよく観察してみると、200メートルぐらいの間隔で同じ店の並びがループしているし、うっかりキリンに頭を踏まれて血まみれのセイウチも数十分に一回のペースでまた僕たちの行く手に現れる。
なんだこれ。走馬灯ってやつなのか?
まるで理解できない道のりを延々とループしているこれが?それとも僕は何か、理解しがたい、あるいは理解をしたくない何かについて拒否しようとしているのだろうか。
……わかったよ。
オーケー、諦めをつけろってことだろ。
そろそろ認めてやってもいい。
死出の旅路は雪風吹きすさぶ荒野か、はたまた石段をくだり続ける洞窟なんてのを想像していたが、そもそも人間の想像力の及ぶ世界ではなかったってことだ。
きっと、未練なんて全部擦り切れてすべてがどうでもよくなるまでこの良く分からない道をいくんだ。
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「仲間」
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所感:
こういう道もある。
電気猫を飼っても案外電気代はかからない。
電気猫達は両耳の房毛がうんと長い触手になっていて、そこでご飯の代わりに電気を吸う。放っておけば勝手に充電ケーブルと触手を繋いで食事をしている。
うちの子はUSB Type-Cがお気に入りで、スマホの充電中に知らん顔で端子を抜き取るイタズラをよくやられた。仕方なく追加でケーブルを買ってきても、新しいのには見向きもしないあたり、ほんと猫そのものなんどけど。
昔々、ある日突然宇宙からやって来た生命体が地球の猫とそっくりのビジュアルだったから、宇宙船で彼らと初めて対面した人間達はとても困惑したんだって。
宇宙生命体が猫に擬態しているだけで本体は別な姿だ、いやそもそも猫が地球征服の先兵として送り込まれていたのだ、とかなんとか人類は喧々轟々議論したらしいけど、かわいいものの魅力には誰も敵いやしない。
地球に移住した電気猫はあっという間に人間との同居にも馴染み、これまたあっという間に猫と同じぐらい可愛がられる存在になった。
カワイイだけで衣食住の全てをまかなわせるとんでもない征服王にとっくに屈している地球人たちだけど、どうしてこんなに平和で幸せなんだろうね。
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「手を繋いで」
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所感:
どんな手があるか、歌い手、旗手、担い手、両手、色々リストアップした中で、一番非日常的な単語を選んだらこうなりました。