そんじゅ

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11/17/2022, 1:26:52 PM

空で輝く星になるにはどうすれば良いかだって?
うん、可能性だけならいくつか考えてやろう。

ひとつ。
どこか宇宙の恒星として生まれおちること。
現時点で不可能だな。却下。

ふたつ。
死後には海や山のあちこちで散骨してもらえるよう遺言を残し、可及的速やかにこの地球の一部となること。
…あぁ地球は惑星だからそもそも駄目か。却下。

みっつ。
今からでも遅くない。天文学に本気で人生を捧げ、未知の彗星を発見して自分の名前を命名させてほしいと国際天文学連合に懇願してみること。
何、名前だけじゃ駄目?贅沢者め。ならば却下。

よっつ。
どうにかして宇宙旅行に出発し、船外活動の時間によく方角を確認したら、おもむろにセーフティ・テザーを切って単身大気圏突入だ。これなら、まず流星にはなればなれる…かもしれんぞ。
痛いのも駄目?一瞬でも?しょうがないな、却下。

いつつ。
恋人をつくれ。親友を探せ。親孝行をしろ。知人の10人中8人に「あいつは良い奴だ」といわれるグッドガイを目指せ。全て叶ったら世間を捨てて旅に出ろ。
誰か一人ぐらいは夜空の星にお前の姿を見るだろう。

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「はなればなれ」

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所感:
お題の「は」を「わ」と読めばイケると思ったのが駄目でした。今までで一番無理のある文章ですが後悔はありません。次はもっとうまくやろうと反省はしてます。

11/17/2022, 3:39:12 AM

人生ままならないものである。

「新色のインク、まだ在庫ありますか」

人気の文房具イベントだ。きっと今日は同じ問い合わせばかりだったろう。芸術点の高い角度で眉を八の字にした売り子さんが、朝イチに完売したと教えてくれた。後日通販を検討中との追加情報で気分は少し軽くなった。

せっかく来たのだし、何か買い物もしよう。

卓上を見回していると、試し書きコーナーの文字にふと目が引き寄せられた。柔らかな緑青から檸檬色へのグラデーションが印象的だ。紙面には「にゃおん」の四文字がゆったりした筆跡でくつろいでいた。

好みの雰囲気だったので訊ねたところ、見せられたのは「キトゥン・ブルー」のラベルが貼られた濃紺の小瓶。紺色?間違いではないかと「にゃおん」を指さすと、このインクで間違いないという。

「子猫の目って、生後数か月で青からガラリと色が変わるんです。それを表現してみたくて、遊色の出方にこだわって作りました」

勧められるままに私も試し書きさせてもらう。乾燥を見守るうちに魔法がおきた。滲みながら青が去り、緑が伸びやかに広がったその空間へ、木漏れ日がさすようにキラキラと現れる黄色。

すっかり魅了された「キトゥン・ブルー」を買い帰路につく。ままならない人生、でもこうやって思いがけず満たされる日もある。
帰ったらこの美しい色で今日の思い出を書こう。

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「子猫」

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所感:
世間は沼が多すぎてうっかり道もあるけません。
灯りを点し先導してくれる優しい人についていったら着いた所は沼の底、なんてこともあるわけで。

11/15/2022, 4:25:49 PM

「…秋風にうつろう山の木の葉より、ひとのこころの…人の心の…はかなくもある」
「なにそれ百人一首?」
「いや、古文の課題」

明日までに本歌取りで十首詠まなあかんねん、と兄は至極眠そうな目で文庫本に付箋を貼っている。

「ふぅん。あの先生いつも変な宿題ばっか出さはる。うちもこないだ竹取物語を関西弁で現代語訳したわ」
「あー、去年俺もおんなじヤツやった」
「ほなノート見してもろたら良かった」
「いやそれはあかん」
「なんで?まさか出来わるかったん?」
「逆や。調子乗って京都弁と河内弁と神戸弁で三つ提出したら、面白いってA+もろてんけど、文章的にレア度高いから写したら多分バレる」
「…あかんな。なんでそういうコダワリもっと他で活かせへんの。これやからいつでもどこでも『君がアイツの妹か』って言われんねん」
「俺も『君が兄か』とか言われてみたいわ」
「くっそムカつく」

兄弟が同じ学校に通っていると下の子は何かとトクをする機会もあるが、面倒くさい瞬間もしばしばある。
もし来年短歌の宿題が出たら、ネタカブりは極力避けねばと妹は固く心に決めた。

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「秋風」

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所感:
本歌は素性法師、古今和歌集より。

11/14/2022, 9:34:46 AM

HKS: see you
PEN: see youノシ
QJU: see you
BEA: see you:D

デイリーミッションのチーム戦は3セット勝利で終了。今日も順調順当。自動翻訳をオフにすると、チャット画面はチームメイトの素の言語に戻った。

HKS: 또 봐요
PEN: またねノシ
QJU: 再見
BEA: cu:D

…また会いましょう、か。
俺らオフラインで会ったことないけどね。

ほんと言うとPENは去年のEVOの会場で見かけた。遠くから見かけただけ。声は掛けられなかった。オンラインではこんなにつるんでるくせして、残念ってよりホッとしてた自分がよっぽど残念な奴だとは分かってる。

けどさ。

すっかり親しくなったつもりで進路相談どころか恋愛相談まで乗ってもらってたPENが、まさか自分の親だったとは思わんだろ、普通!?

…正直、週末実家に帰るたび会ってますわー。

墓まで持ち込み案件のトップシークレットが二十代のうちに入手できるとは思ってもなかった。

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「また会いましょう」

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所感:
こういうの、絶対知らぬは本人ばかりなり、とっくに親バレしてるパターンが鉄板ですよね。 

11/13/2022, 1:20:59 PM

「小テストどやった?」
「しくった。スリルでマイナス5点」
「more thrillingのとこ?なんで?」
「thrill、thriller、thrillestと思うやんか」
「アホがおる。それは名詞化の-erやろ」

否定はせんけど阿保に阿保云うお前も阿保じゃ、とお決まりのセリフを投げつつ彼は机から単語ノートを引っ張り出してきた。ペナルティもないのに復習の書き取りを欠かさない級友は、アホなりに真面目なのだった。

受験ってものに何かコツがあるとすれば、どれだけ真面目に成果を積むか、あるいはどんだけ不真面目でも勘所だけ抑えておけるか。この二択のどちらが自分の性に合うかを見極めることだ。

ああやってあいつは常に端折らず課題全部に目を通していたし、僕は捨て教科全部仮眠に充てていた。それで今また二人揃って同じ学校に居るのは、お互いうまいこと正解の道を選べてたってことだな。

こうして毎日肩を並べて歩けるのはいつまでだろう。
未来を思うと少し怖くて、でもワクワクする。


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「スリル」

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所感:
MJの二文字を目にしてスリラー・バスケ・スパイダーマン、どれを思い浮かべるかで世代が分かれる。お題からそんな話を思い出し、thrillのスペルを確認しました。

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