当世、風切羽を切った天使を連れ歩くのが流行りだ。
街に出ればあちこちで天使を見かける。
雑に刈られ飛べない翼をみすぼらしく畳みぼんやりと主人の後について歩く姿に、清廉で威光に満ちたかつての面影はない。
神が死に、天上の安寧は永久に失われた。人間はその代わりに現世での加護を確保するべく、天使を地上へ繋ぎとめる強引な道を選んだ。
富める者は数多の天使を身辺に侍らせ、貧しい者はせめて折られた羽根の一枚でも護符になりはするまいかと彼らの後を追い回す。
神の死と共に教義への理解も捨てた人間の群れ、そのまた後にじっと付き従うのは大きな黒い影。
そう、神の不在は決して悪魔の消滅を意味しない。
空から堕ちた天使らの居所に相応しい世界。
この国はすでに地獄の領域。
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「飛べない翼」
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所感:
お題を比喩表現ではなく考えると、鳥か飛行機が酷い目にあう場面ばかり浮かんで辛かったので、いっそもっと派手に痛くしてみようかと天使を呼びました。
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なんの気なしに始めたこのアプリ、今日で一か月になりました。お題をもらって書くスタイルは自分に向いていたようです。まだまだ色々遊んでみるつもりです。
書いたものをアップし終えてから、他のユーザーさん達の文章を読むのも楽しみになりました。お気に入り登録もめっちゃいっぱい増えました。
毎日、同じ話題について互いに思いを巡らせ合った、その答え合わせをしている気分といいましょうか。ここに居る人間の数と同じ数だけ、違った物語が生まれている事実に深くときめきます。私、ロマンチストなので。
ここ数年の出不精の反動か、今年の夏は沢山遠出した。
予定をつめ過ぎて疲れた日もあったけど、でも、おかげで手持ちの浴衣全て一度は着られたので大満足だ。
洗って吊りっぱなしだった浴衣を順々に下ろし、たとう紙を広げていると、後ろからあなたが寄ってきた。
「その花柄、よく似合ってた」
視線の先を辿ると黒地に七草柄。
確か水族館デートの日に着たもの。
「この柄は秋の七草。全部言える?」
「桔梗。…あとなんだっけ」
あっさり降参されたので、染めの花模様を順に指で
辿って教えてあげる。
「萩、撫子、藤袴、葛、尾花、女郎花」
「オバナってどの花?」
「花っていうか、これ。ススキのことだよ」
「えっそれススキなの!?」
唐突な驚き声にこっちが驚いた。
「水しぶきの模様だと思ってた」
だって水鉄砲みたいで涼しそうじゃん!とあまりに素直な感想を上乗せしてくるのが呆れるよりも可愛らしい。
「ね、来年、あなたも一緒に浴衣着て出掛けようよ」
「着物全然分かんないから、教えてくれたらね」
おお、案外乗り気な返事。七草に合わせるなら芒に蜻蛉あたりの、隠れお揃い柄とか着せてあげたいかも。
そしたらまた「水しぶきだ!」って笑うかな。
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「ススキ」
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所感:
一日中脳内BGMが昭和枯れすすきでした。そこから離れたく可愛い人達を召喚したら文章が伸びすぎ、半分消しました。2スクロール以上は読む気がなくなりません?
「思い出とか脳裏に浮かんだり、する?」
ふと気になって、うちのヒロさんに聞いてみた。
「脳裏ですか。漢字では脳裡とも書き、頭の中または心の中という意味ですね」
間を置かず、彼は語義から真面目に確認してくる。
「ヒ」ューマノイド「ロ」ボットだから、ヒロさん。
父の命名は安直だったけど悪くない名前だ。
「残念ながら私の頭部には動物でいう脳に該当する装置がありません。ゆえに脳裏も存在せず、存在しない部位において映像や音声等の情報展開は不可能です」
予想外の答えにヒロさんをまじまじと見る。
いやどこをとっても見た目は人間だよね。
「え、脳…ないの?」
「はい。今お嬢さんは私の顔を注視していますが、この頭の内部のほとんどは、眼球と耳殻の視聴覚機器そして人工声帯の制御装置で占められています」
「ああ…なるほど。そしたらひょっとして記憶装置は胴体に置かれているとか?」
「ご明察です。胸郭内部に記憶装置があり、その中心部で知覚統合処理がおこなわれています」
ヒロさんは微笑みの形に口角を上げた。
ゆっくりと自分の胸に手をおいて、お嬢さんの思う答えとは違いますがと前置きする。
「私が思考するとき、ヒトの心臓があるべき位置で記憶や感情が行き来します。お父上はそのように私を設計されました」
彼はもう一度、今度はにっこり大きく微笑んだ。
「つまり私の心の在り処はここなのです」
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「脳裏」
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所感:
脳裏ってどこだろうね?という疑問から、脳裏のない存在について考えていたら初めてネームレスじゃないキャラクター「ヒロさん」が爆誕してしまいました。
生命力旺盛だったゴーヤの葉もついに色褪せた。
そろそろネットを片づける算段をしなくては。
あれは春の話だ。
グリーンカーテンっていうんだって、そういうの。葉がいっぱい茂れば家の日除けになるし、実は食べられるし、毎朝世話するから早起きできるようになって、これぞ一石三鳥。私がんばるから!
…と、皆の前で決意表明したのが良かったのだろう。
お陰ですっかり朝型の生活が身についたのには我ながら驚いている。そして確かにこの夏じゅう、空調の設定温度を去年ほどには低くせずに済んだ。
収穫だって今年初挑戦とは思えないぐらいの量で。
毎朝、たとえ午後から雨の予報だったとしても「土の乾燥ぐあいからいえば、今水やりしても意味がないことは無いでしょ」なんてそれはそれは懸命に世話をした甲斐もあったというものだ。
それに予想外の収穫はゴーヤだけじゃなくって。
あなたが私の家庭菜園話を面白がってくれたこと。
実ってるところを見たいと部屋に来てくれたこと。
はりきって作った料理を、沢山ほめてくれたこと。
あなたのためにレシピを10種類も開拓できたこと。
来年は一緒に育ててみたいって言ってくれたこと。
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「意味がないこと」
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所感:
こんな薄ら可愛い終わり方にするつもりはなかったんです。書き始めた時は「一石二鳥どころか一石八鳥」とかこの主人公に言わせてドヤ顔させたかっただけなのに。
「解けた!」
「本当に?」
このやりとりも、もう何度目だろう。
カップル割が効くからと無理やり脱出ゲームに付き合わされて、しかも半日がかりで未クリアって。
そろそろ冷たい顔でもしてみせようかと悩み中。
「被害者が何故わざわざ平仮名で書き残したと思う?」
「…さあね」
「アナグラムに挑戦しろってことだよ」
「…へぇ」
いや見てくれよ、と彼はメモをめくる。
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あなたとわたし
↓
anatatowatashi
↓
onihasawatatta
↓
おにはさわたった
↓
鬼は沢だった
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「なあこれ完璧じゃね?犯人は沢!」
「だ、濁音が気に入らない…」
「そこは言葉のアヤだって。よし、入力!」
入室時に渡されたタブレットを操作した直後、聞こえたのは本日5度目の間抜けなブザー音だった。
「違ったか…」
「ねぇ本当に脱出できる?」
「お、おう!任せとけ!」
本当にわかってる?
貴重な休日、君と否応なしに二人っきりなんてシチュが嬉しくなかったら、とっくに怒って帰ってるよ。
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「あなたとわたし」
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所感:
今日のお題、何故に平仮名?という素の疑問からどれだけ斜め下へ掘って行けるか検討した結果がこれでした。回文も試してみたけど無理でした。回文は難しい。