そんじゅ

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「…秋風にうつろう山の木の葉より、ひとのこころの…人の心の…はかなくもある」
「なにそれ百人一首?」
「いや、古文の課題」

明日までに本歌取りで十首詠まなあかんねん、と兄は至極眠そうな目で文庫本に付箋を貼っている。

「ふぅん。あの先生いつも変な宿題ばっか出さはる。うちもこないだ竹取物語を関西弁で現代語訳したわ」
「あー、去年俺もおんなじヤツやった」
「ほなノート見してもろたら良かった」
「いやそれはあかん」
「なんで?まさか出来わるかったん?」
「逆や。調子乗って京都弁と河内弁と神戸弁で三つ提出したら、面白いってA+もろてんけど、文章的にレア度高いから写したら多分バレる」
「…あかんな。なんでそういうコダワリもっと他で活かせへんの。これやからいつでもどこでも『君がアイツの妹か』って言われんねん」
「俺も『君が兄か』とか言われてみたいわ」
「くっそムカつく」

兄弟が同じ学校に通っていると下の子は何かとトクをする機会もあるが、面倒くさい瞬間もしばしばある。
もし来年短歌の宿題が出たら、ネタカブりは極力避けねばと妹は固く心に決めた。

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「秋風」

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所感:
本歌は素性法師、古今和歌集より。

11/15/2022, 4:25:49 PM