闇の精霊

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10/15/2024, 10:58:39 AM

【鋭い眼差し】
「ご機嫌よう」
背後から突然声が掛かる。気配も感じなかった。しかも、今の行動を見られたら不味いと道具を引っ込めて振り向く。
「こ、こんにちは」
うわ、マジかよ。巫女さんじゃんと冷や汗をかく。今やろうとしていたのは祠の破壊。理由はバズりたいから。ニコニコとしていた巫女さんの目が開く。口元だけが笑っている冷たくて鋭い眼差し。俺は数歩後ずさる。コツン。何かにぶつかった。そして、かなりの音を立てて崩壊した音がした。あ、これは…。
「祠、壊せてよかったですね。どんな末路を迎えるのか。楽しみにしていますよ」
背を向けた巫女さんに待ってと声を上げたかったが声が出ない。突然苦しくなってもがく。音だけは届いたのか最期に巫女さんは顔を向けて言った。
「お可愛そうに。ふふふっ」
この性悪巫女がっ!と声が出ずとも悪態をついたが俺という存在はナニカによって消されていくのだった。意識が闇に溶ける。もう戻れないと感覚で理解しながら何も出来ずに消えていくのだった。

10/14/2024, 11:35:48 AM

【高く高く】
志は高く、成長をしよう。技術は高い方がいい。高く高く高く。でも、地べたを這う時期はある。それにそもそも高い位置にいないなんて事もざら。無理せず丁度いい高さにいよう。甘んじ過ぎるのもよくないけどゆったりするのも良いもの。高所恐怖症だっているんだ。高くある事を強制するなんてナンセンスさ。

10/13/2024, 10:50:34 AM

【子供のように】
ビルの屋上から人々を見下ろす。頭上を気にする者はなく、暗闇に溶けている俺など誰も気にしない。家族連れ、イヤホンを付けて歩く若者、サラリーマン。様々な人間が成す光の世界。あそこにはもう戻れない。高校生の頃の忌々しきあの事件さえなければ。拳を握り締める。既に成人はしているものの時にトラウマを抱えた子供のままだと思い知らされる。元凶の黒百合、邪悪な黒椿。メカクレギザ歯の底知れぬ男に狡猾でおぞましい憑神。どいつもこいつもドス黒い悪だ。容赦なく人々を屠る。どうしようもない…そう、太刀打ち出来ないやもう復讐する事さえ出来ないという意味でもどうしようもない奴等。力が欲しい。奴等を一掃出来る力が。日々の鍛練を積む時間の間に犠牲者が増える。本当に本当にどうしようもない。無力さに腹を立てて歯軋りをする。
「やぁ、こんばんは」
嘲る声で分かる。憑神。何しに来た?
「別に通りすがりであって探してすらいないよ。でも、うちの復讐者君に接触したそうじゃないの。宜しくないねぇ。これ、お家のお話だから」
やはり、知っていたか。
「此方の出方うかがっても無駄。何もしやしない。水溜まりで溺れるアリごときに気なんか配らないさ」
挑発に乗るな。コイツはそういう奴だ。
「堪えてても武器に手が掛かってる。堪えきれてないねぇ。言っておくけどこれは傲慢が故の煽りじゃない。本当に余裕があるからこうしてる。殺すなら殺してるさ」
事実。俺が奴に勝てるビジョンは見えない。
「まぁ、せいぜい復讐者同士で好き勝手するといい。俺だって好きに生きさせてもらう。己が血族に寄生しているだけの憑神が生きてるだなんて笑わせるという面白味もない言葉は受け付けてないよ。さて、お仕事の時間だ。ちょっと抜けてる宿主がまたろくでもない同級生に金を貸したそうな。お人好しだね。そんなお人好しだけを生かして俺を殺す。出来るかねぇ此方側の知識を囓った程度のお子様が。足掻くだけ足掻くといいさ。じゃあね」
振り向く事などなかったが気配が一瞬にして消えた事でここには俺しかいないと理解出来る。そう、奴の宿主は何の罪もない大学生。それを殺すなんて出来ないという甘さを見抜かれているし、接触した彼もそれを望んではいない。もっと非情になれればいいんだろうが奴等の様に心を捨てた外道になどなりたくはない。それが甘いという事なのだろう。深くため息をつく。あぁ、実に無力だ。

10/12/2024, 12:57:37 PM

【放課後】
さてさて、今日はワクワクドキドキチョベリグテンアゲな話題を持ってきたよ。
「先輩。話題よりも…ちょべり?てんあげ?なんですかそれは」
おやおや、たった数年生まれるのが早いだけでこの言葉が伝わらないのかい?悲しいねぇ。チョベリグは超Very Goodの略でテンアゲはテンションアゲアゲの略だよ。
「知らないですけど?」
これがジェネレーションギャップか。いやはや、私も老いたね。
「冗談はいいので話を聞かせてください。死語が今回の話題だったりします?」
そんな訳ないだろう。チョベリバのテンサゲのぴえんといった感じだね。ぱおんぱおん。
「先輩、未成年で飲酒は宜しくないですね。生徒指導の先生呼んできます」
待て待て。些細な戯れじゃないか。それに私はこの部活動のせいであの生徒指導から睨まれているんだ。勘弁してくれ。
「二人だけの部活動。いや、同好会ですよね。それも違う。同好会を名乗るのもおこがましい人数な上に放課後に屋上でオカルト部として記事を書き、掲示板に貼ったり、配って回る活動。それは睨まれますよね。先輩は部長ですし、尚更ですね」
まるで私が悪の親玉かつ全ての元凶の様な言い分じゃないか。占拠はしていないし、記事を書くという文芸活動。そして、愛しのオカルトの何が悪いんだい?頭にアルミホイルを巻いて電波がーマイクロチップがーノストラダムスの予言がーと騒ぎ立てる陰謀論者じゃないんだ。オカルトと陰謀論を同一視する愚か者は宇宙人に拐われて改造手術でも受けてきてくれたまえ。
「あー…。色々と突っ込みたい所はありますが…。何言っているんですか先輩は。そういう事を言うから周りから『何コイツ』と奇異の目を向けられるんですよ」
奇異?そうだったのかい。私の優れた頭脳に嫉妬している愚民の視線だと思っていたよ。ふふふっ。
「先輩」
怒らないでくれたまえ。私が学年成績三位以内かつ学内の成績でも五位以内には入っている秀才だよ。それに偽りはなかろうよ。
「それは紛れもない事実ですね。尊敬しています。それ以上に異常…。何でもないです」
美少女には欠点があった方が人間味があって素晴らしいだろう?同じ人間だと愛せるだろう?完璧というのは理解から遠退く代物なんだよ。ふふっ、普遍的な美少女というのは実に愛らしいね。
「…。」
呆れてくれるなよ。私の顔面は普遍だ。実に面白味もない。整ってもないが崩れている訳でもない。つまらない面だよ。
「そこじゃないですけど…。先輩のどこを見ても普遍的とは言えま…。ゴホン。というか、外見気にするタイプなんですか?先輩」
美少女に憧れるのは老若男女関係ないんだよ。美少女であればちやほやされるからね。大勝利だよ。愛される事は才だよ。私は私の道を往くからそういう才など桜の木の下に埋めてきたが。欲しかったらスコップを貸そう。その才を入手出来れば愛され後輩の爆誕だ。
「今の流行りは祠の破壊らしいですけどね」
そう。それだよ。今回の話題は。
「先輩が流行りの祠破壊の話を持ってくるとは…。あれ、単なる罰当たりの愚か者の末路の話ですよね?というか、戯言では?」
インターネットという広大な海の妄想の産物ではなくこの辺りで本当にそれやってのけ、祟られた配信者の話だよ。
「ヤラセ臭が凄い眉唾オカルト…」
祟りが本物ならオカルトだろう?ヤラセならいくらでも暴いてやろうじゃないか。彼の活動を昇華する学生の慈善活動だよ。
「えぇ…」
引かないでくれたまえよ。件の彼の祠破壊動画の保存は既に行っているし、動向も常に見ている。配信にはノイズ、オーブ、文字化けしたコメント等々の異常現象ハッピー特盛お買い得欲張り盛り過ぎセットで見ていて飽きないよ。
「先輩は言葉を盛るのが流行りですか?」
テンアゲなのが伝わるだろう?
「はぁ…?」
さて、粗方用件は伝わっただろう。これがPCルームの鍵と学校のPCからインターネットに接続する為のコード。そして、件の配信アーカイブのデータ。一緒に視聴をして謎を暴こうじゃないか。
「用意周到な上にナチュラル犯罪…」
法に触れているのかい?それは驚いた。鍵はお借りしたのとコードは丁重に教えてもらったもの。アーカイブの保存は問題ない。ネットの海に流さなければいいのさ。何も悪くないね。
「…はぁ。分かりました。一緒に怒られる覚悟は出来ましたから行きましょう」
バレなければ問題などないのだよ。ふふふふっ。大船に乗ったつもりできたまえ。
「何処からその自信が湧いてくるんですか…。もういいです。早く共倒れしましょう」
ネガティブだね君は。だが、共倒れしてくれる覚悟は好きだよ。うふふ。

10/11/2024, 12:22:19 PM

【カーテン】
窓際に座って優美に紅茶を飲む彼女。艶やかな唇。ティーカップが嫉妬しそうな陶磁器の様に白くて繊細な指。逆光で仕草も姿も何もかもが神々しく見える。
「そんなに見ないでよ。貴方ったらいつもそうね。仕草一つ一つを観察するのの何が楽しいのかしら」
好きだから。愛しているから。
「ふふっ、愛妻家ね。世界一幸せな女の称号頂いちゃうわよ」
風が吹く。羽衣の様に彼女を包む純白のカーテンが彼女をこの世のものじゃない存在に昇華させる。美しい。こんなに美しい存在が実体として存在しているのが夢の様だ。
「筆が進んでるわね。その絵が完成するの楽しみだわ。無理せず描いてちょうだいね。あ、風が強かったら閉めるからね」
あぁ、君の美しさをこのキャンバスに留めておこう。それが矮小なる僕に出来る唯一の事だからね。ほぼ、白のキャンバスに淡い線を引いていく。白に溶け入る君。それがこの絵のタイトルだ。だが、これだけは強い色彩で彩ろう。瞳を真っ赤に塗り潰す。アルビノの君。性格と同じく鮮烈な赤。これがないと君とはいえないからね。キャンバス上の君さえも愛すよ。愛しの君。

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