闇の精霊

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【子供のように】
ビルの屋上から人々を見下ろす。頭上を気にする者はなく、暗闇に溶けている俺など誰も気にしない。家族連れ、イヤホンを付けて歩く若者、サラリーマン。様々な人間が成す光の世界。あそこにはもう戻れない。高校生の頃の忌々しきあの事件さえなければ。拳を握り締める。既に成人はしているものの時にトラウマを抱えた子供のままだと思い知らされる。元凶の黒百合、邪悪な黒椿。メカクレギザ歯の底知れぬ男に狡猾でおぞましい憑神。どいつもこいつもドス黒い悪だ。容赦なく人々を屠る。どうしようもない…そう、太刀打ち出来ないやもう復讐する事さえ出来ないという意味でもどうしようもない奴等。力が欲しい。奴等を一掃出来る力が。日々の鍛練を積む時間の間に犠牲者が増える。本当に本当にどうしようもない。無力さに腹を立てて歯軋りをする。
「やぁ、こんばんは」
嘲る声で分かる。憑神。何しに来た?
「別に通りすがりであって探してすらいないよ。でも、うちの復讐者君に接触したそうじゃないの。宜しくないねぇ。これ、お家のお話だから」
やはり、知っていたか。
「此方の出方うかがっても無駄。何もしやしない。水溜まりで溺れるアリごときに気なんか配らないさ」
挑発に乗るな。コイツはそういう奴だ。
「堪えてても武器に手が掛かってる。堪えきれてないねぇ。言っておくけどこれは傲慢が故の煽りじゃない。本当に余裕があるからこうしてる。殺すなら殺してるさ」
事実。俺が奴に勝てるビジョンは見えない。
「まぁ、せいぜい復讐者同士で好き勝手するといい。俺だって好きに生きさせてもらう。己が血族に寄生しているだけの憑神が生きてるだなんて笑わせるという面白味もない言葉は受け付けてないよ。さて、お仕事の時間だ。ちょっと抜けてる宿主がまたろくでもない同級生に金を貸したそうな。お人好しだね。そんなお人好しだけを生かして俺を殺す。出来るかねぇ此方側の知識を囓った程度のお子様が。足掻くだけ足掻くといいさ。じゃあね」
振り向く事などなかったが気配が一瞬にして消えた事でここには俺しかいないと理解出来る。そう、奴の宿主は何の罪もない大学生。それを殺すなんて出来ないという甘さを見抜かれているし、接触した彼もそれを望んではいない。もっと非情になれればいいんだろうが奴等の様に心を捨てた外道になどなりたくはない。それが甘いという事なのだろう。深くため息をつく。あぁ、実に無力だ。

10/13/2024, 10:50:34 AM