テーマ『時計の針』
時計の秒針が、ヤケに耳に響いて仕方がない。
早く寝なきゃなんて思うのに、そういう時に限って頭は冴える。
そうすると不思議なことに、楽しいと思える出来事なんかより不安なことや怖いことが頭の中で思い浮かんできてしまうのだ。
皆はそんな経験、ないだろうか。
たとえば会社の飲み会が憂鬱でちょっと気落ちしたり、学生だったら友人関係の縺れにため息出たり、はたまたホラー映画や動画なんて見た日には眠れない日に限って鮮明にその映像を思い出す。
そういうとき程、時計の秒針は音を鳴らす訳だ。
カチコチ、カチコチ。
決まったリズムで一定に。
ああ、早く寝なきゃ!この音がまた、わたしの眠気を遠のかせる!
目が冴えている。全くもって眠れない。
寝なきゃ寝なきゃと思うほど、頭は冴えて別のことを考える。
そうして結局、暗いなかで枕元に置いてあるスマホを手に取り現実逃避してしまうのだ。
テーマ 『溢れる気持ち』
好きで好きで、仕方がない。
おはようと挨拶すればはにかむように笑うその表情も、
たまに寝ぐせをつけて学校にやって来て、
恥ずかしいときには必ず目をそらすその仕草も、
ひとつ言い出したらキリがないくらい、ぜんぶがぜんぶ好きなんです!
「好きな人、出来たんだ」
だけど悲しきことに、一生交わることのない思いはいつだって平行線だ。
あーあ。その相手がわたしだったらいいのに。
好きな人の前では、そんな顔をするんだね。
…ねぇ、好き。好きなの。何れ叶ってしまうかもしれないあなたの恋を、どうしたって応援することが出来ない最低な友人でごめんなさい。
わたしが異性であれば、すぐさま好きだとあなたに伝えるのに。
そんな目で見てないと信じて疑わないあなたに思いを伝えることが怖くて出来なかった。だって友情関係まで崩れたら、あなたと接点すらなくなっちゃうんだもん。
でもこんなことなら、こんなに好きなんだと勇気を出して伝えれば良かったな。
そうして悔しいことに、わたしの目に映るあなたの好きな人を見つめるその瞳は一番だと言っていいほど、ひどく綺麗だった。
テーマ『Kiss』
今日で終わりにしよう。
今日会ったらこれで最後。
思うことは毎回同じ。
なのに反省できないわたしはお勉強ができない子よりもうんとタチが悪い。
いつ連絡が来るかソワソワして、
少しでも可愛いと思って貰いたいから化粧して、
いつだってわたしの優先順位は彼になってしまうのがほんとうにイヤ。
世の中の見方をちょっと変えれば、彼よりももっと素敵で一途な人なんてたくさんいるだろうに。それが出来ない自分が大嫌い。
"身体だけの関係はいつか自分を苦しめることになるよ"
分かってるよそんなこと。
わたしが一番、よく分かってる。
わたしの事をそんな風に見ていないことも、わたしの事をこれから先もそういう目で見てくれない事も、ぜんぶ分かってるんだよ。
なのにわたしは、ほんの少しの可能性に期待してしまった。
「もう、終わりにしよう」
貴方が言う前に、わたしが言いたかったことを言わないでよ。
そんな苦しそうに、わたしの目を見ないで欲しい。
どうせなら潔く捨ててくれる方がまだマシだった。
「泣くなって」
こんな時だけ優しいの、ほんとひどい。
わたしを一番にはしてくれなかったくせに。
わたしの髪をするりと撫でた大きな手が唇をなぞる。
これが本当の最後になってしまうんだね。
そっと触れるだけのキスを落とした彼のことを滲む視界で睨みつけた。
こんな悲しいキスは、初めてだった。
テーマ『1000年先も』
たとえばあなたが嬉しいとき、わたしも一緒に笑い合いたいです。
たとえばあなたが怒っているとき、その感情を受け止めて落ち着くまで傍で寄り添いたいです。
たとえばあなたが哀しいとき、上手い慰めは出来ないかもしれないけどその涙を拭うことが出来る権利が欲しいです。
たとえばあなたが楽しいときは、わたしもきっと、楽しいのです。
どんなことがあったとしても、わたしは常にあなたの味方です。
あなたがわたしを思って泣いてくれていること、とても幸せだと思ってしまいます。触れ合うことは出来なくなりますが、それでも常にあなたを思っています。
この気持ちは10年、20年、100年と続き、あなたが例えわたしを忘れて前を向いても、わたしだけは覚えている感情です。
そうしてまた長い未来であなたをもし見つけることが出来たなら、その際は今もこれからも、1000年先もずっと好きだよとちゃんと言葉にして伝えさせて下さい。
テーマ「勿忘草」
いま思えば、あの時もっと自分がちゃんと気持ちを伝えていれば何かしらは変わっていたんじゃないかと思うときがある。
それは社会に出てからもそうで、あまり連絡を取り合わなくなった友人や、会社の仕事関係。様々なところでそう考えるときがある。
それは恋愛だって例外じゃない。
出会いがあれば、別れもあるのは必然的で、当時の自分は我儘で身勝手だったと何度後悔したことだろう。
「あのね…あんまり連絡も取れないんじゃ、付き合ってる意味ないなって思って」
涙を堪えていること、分かっていた。
自分のせいでそんな事を言わせてることにも気付いていた。
「別れたい」
彼女はいつも俺を一番に考えてくれて、好きだと素直な思いを伝えてくれていた。それなのに俺ときたら友達を優先し、彼女のことを疎かにしてしまった。好きなのに、大事なのに、俺は勝手に彼女が離れていかないと思い込んでしまった結果がこんな結末を迎えてしまった。
「…分かった」
ごめん。やり直したい。俺はまだキミの事が好きなんだ。
こんな言葉が喉から出かかっているのにそれを伝えることは出来ず、頷いた俺を見て彼女は涙を一粒零すと小さく笑った。
「あ、見て見て。この花、小さな花なのに可愛いよね」
「そうか?そんなの何処にでも生えてんじゃん?」
「なんか私今花言葉にハマってるんだけどさ、真実の愛とかっていう花言葉らしいんだけどもう一つあって」
「ふぅん?」
にこにこ話す彼女の顔は今でも思い出せる。でも声がどんな風だったのか思い出せない。それが非常に悔しい。
「わたしを忘れないでって意味もあるんだって」
一切興味のなかった花言葉。キミは何気なく言った言葉なんだろうけどさ、数年経って春の季節が訪れると毎年咲くこの花を見れば、必ずキミのことを思い出すよ。
でもキミは、そんな俺のこと忘れてもう新しい道を歩んでいるんだろうな。