2/2/2024, 8:16:06 AM
テーマ『ブランコ』
持ち手の鎖が、音を立てる。
わたしが小さいときはまだこんなに錆びていなかったはずだ。
風が吹き太陽が傾き始めたこの時間は肌寒く、薄着で出てしまったことを後悔した。そうして一人息を吐き、人が少なくなって昼間の景色とはうんと違う景色を見て思い出した。
もう十数年も前の、まだ自分が親に守られていた頃のことを。
まだ遊びたい気持ちを胸に押し込めて、わたしは母の手を握る。ドラマで出てくるような「今日はなんのごはん?」なんて聞きながら、遊んでいた遊具にさよならをし、家路に着くのだ。
あの頃でしか味わえない形容し難い感情がひどく懐かしく、鼻の奥が小さく痛んだ気がする。もう戻れないんだなぁと思うと無性に寂しくも感じた。
「…そろそろ帰るよー!」
「えぇ?もう?」
すべり台で夢中になって遊んでいたわたしの宝物が、口を尖らしてわたしの元へと駆けてくる。その姿がまた、愛らしい。
「また来ようね。パパももうすぐお仕事終わるし」
「うん。あ、今日なんのごはん?お腹空いちゃったよ」
まるで昔の自分を見てるみたいで思わず笑いが込み上げてきた。小さく笑えば、不思議そうに小首を傾げるわたしの宝物が目に映った。
「何がいい?」
錆びた鎖から手を離し、小さな手のひらをきゅっと握る。
えっとね〜!と楽しげに話すこの子を見て思うのだ。
あの頃の母の気持ちってこんな感じだったのかなって。
戻りたくても戻れないもどかしさと、今の幸せが入り交じってわたしはこの子の頭をそっと撫でる。
そうして振り返りゆらゆらと揺れるブランコに、また来るねと告げた。