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6/13/2024, 10:29:15 AM

【紫陽花】

色のない世界に住んでいた
最初から無かったのか
それとも知らぬうちに色が抜けて
モノクロームになったのか
そんなことはどうでもいい
とにかくこの街は灰色で
わたしはそれが当たり前だと思っていた

雨が降ってきた
蒸し暑い空気の中で
ただ傘もささずに歩いている
何かを探して
意味なんて何もない
ただ雨の中を歩いている

いつものこの道、いつもの時間
だけど今日はいつもと違う
雨が降っている
それから、それから
すれ違ったあの人と目があった

たったそれだけのことなのに
世界が姿を変えてゆく
まるで魔法のように美しい水色
それから鮮やかな紫、そして桃色
みずみずしい緑が雨に揺れて溶けていく
あの人は誰だろう

きらめく雨粒の中で
わたしの世界がいま鮮やかに色づく

6/12/2024, 11:00:31 AM

【好き嫌い】

“好き”というラベルを貼っておいたものが
いつの間にか“嫌い”になっていたり
することない?
その逆は?
嫌いだったものが好きになること、ある?

テレビをつけると
嫌いなタレントがはしゃいでる
最近いつもいる。きっと人気があるんだろう
みんなの“好き”と私の“好き”は違うらしい
見慣れたり、理解をしたら
“嫌い”が“好き”に変わるのだろうかと
リモコンをもつ手が少し躊躇するけど
結局は消してしまう。
我慢して見るには時間は有限だから。
だけど、もう少し見ていたら
わたしの“嫌い”は“好き”に変わったのかな?

それにしても、今日は筆がのらない
このお題は嫌いだ
ぜんぜんアイデアが膨らまないし掘り下げられない。
そんなときふと思い出す言葉がある。
Not for me
って言うやつだ。

Not for me
って言葉いいよね。
誰かの“好き”が、わたしの“嫌い”のときはこの言葉が便利だ。
相手の感性を尊重しつつ、やんわりと拒否できる。

なんてとりとめのないことをつらつらと、
考えていることを吐き出していたら
少しずつ筆がのってきた
書くのが楽しくなってきた。
結局、私は書くことが好きなのだ。
うまく書けなくても、
納得いく出来でなくても
言葉がでなくて苦しくても
書いているときは楽しくてしょうがない。

嫌いだったこのお題がいま
好きに変わった

6/11/2024, 10:42:04 AM

【街】


ビルとビルの間から日が昇る
眩しい光の筋にに目を細めながら
わたしは街に話しかける
おはよう 今日もまた幕が上がる

昔読んだ小説の主人公は街だった
正確には主人公は高校生だったり
闇医者だったりデュラハンだったりする
群像劇だったけど
人と人とがシナプスとなって
池袋の街という人格を形成している物語だった
そんなことを思い出しながら
わたしは街に向かって歩き出す


雑踏に踊れ高らかに歌え
狂気の歌を
街という舞台で
今日もさまざまな物語が上演される
クライムやラブロマンス
サイコスリラーに青春物語
百冊の本よりも生々しく
展開の読めない物語が展開し転落していく
書を捨てよ街へ出よう
あなたが主役の物語を私にみせて
街という人格を

幕間

この街のどこかに泣いているひとがいる
この街のどこかに笑っている人がいる
怒っている人も謝っている人も
亡くなる命、産まれる命
さまざまなものを飲み込んで
街は今日も無表情

そしてまた日が落ちる
ビルに灯りが知らしめる
そこに人がいることを
静かに幕がおりて
拍手も喝采もなくあるのは夜の喧騒
やがて灯が消えておやすみなさい
明日はどんな物語がうまれるのかな
そんなことを思いながら街は
ふたたび眠りの中へ

カーテンコール

6/10/2024, 10:25:00 AM

【やりたいこと】

安楽椅子に身を沈め
枯れ木の手にはパイプが収まる
最初から身体の一部だったかのような
そのパイプから踊る白い煙
やがて老人は語りはじめる
大地の底から響いてくる暖かな声は
しかし何と言っているのか聞き取ることができない
やがて老人の声が寝息に変わりはじめ
白い煙が夢へといざなう
少年の日へ

少年は空をみていた
暗い夜空に浮かぶ白い月
少年は妹に云う
僕はいつか宙へ行く
あの月に立つんだと
そう語る少年の目は満天の星よりも輝いていた
妹の小さく暖かな手を握りながら
少年の夢はきっと叶うと信じていた

やがて老人は目を覚ます
白く濁った目は
それでも輝きはあの日のまま
夢が現実で現実が夢なのか
握ったパイプから白い煙を吐き出しながら
あの日の月を、妹の幼く小さな手を思う
きっと遠からず夢は叶うだろう
そんなことを思いながら老人はまた
夢の中へ

6/9/2024, 10:36:28 AM



【朝日の温もり】

遠くで誰かの声がする
「明けない夜はないよ」
あれはいつのことなのか
いまだ夢の中、答えは見つからず
揺れるカーテンの向こうにあなたを探す

窓を開けると心地よい風が
昨日までの鬱屈とした気分を吹き払う
わたしは珈琲を入れながら
明け方の夢、声の主を探す
顔のない声が懐かしさとともに
珈琲の薫りに溶けていく

朝だけはしあわせ
テーブルの食卓
目玉焼きにバタートースト
トマトジュースにヨーグルト
窓から射し込むは暖かな光
わたしはトーストをかじりながら思う
「明けない夜はないよ」
あの声の主も
ここにいればもっと
もっと良かったのになぁ

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