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【街】


ビルとビルの間から日が昇る
眩しい光の筋にに目を細めながら
わたしは街に話しかける
おはよう 今日もまた幕が上がる

昔読んだ小説の主人公は街だった
正確には主人公は高校生だったり
闇医者だったりデュラハンだったりする
群像劇だったけど
人と人とがシナプスとなって
池袋の街という人格を形成している物語だった
そんなことを思い出しながら
わたしは街に向かって歩き出す


雑踏に踊れ高らかに歌え
狂気の歌を
街という舞台で
今日もさまざまな物語が上演される
クライムやラブロマンス
サイコスリラーに青春物語
百冊の本よりも生々しく
展開の読めない物語が展開し転落していく
書を捨てよ街へ出よう
あなたが主役の物語を私にみせて
街という人格を

幕間

この街のどこかに泣いているひとがいる
この街のどこかに笑っている人がいる
怒っている人も謝っている人も
亡くなる命、産まれる命
さまざまなものを飲み込んで
街は今日も無表情

そしてまた日が落ちる
ビルに灯りが知らしめる
そこに人がいることを
静かに幕がおりて
拍手も喝采もなくあるのは夜の喧騒
やがて灯が消えておやすみなさい
明日はどんな物語がうまれるのかな
そんなことを思いながら街は
ふたたび眠りの中へ

カーテンコール

6/11/2024, 10:42:04 AM