「もしも君が」
もしも君が、私のことを好きになってくれたら
もしも君が、私の恋人になってくれたら
もしも君が、私のことを見てくれたら
もしも君が、私に話しかけてくれたら
もしも君が、私に告白してくれたら
もしも君が、私を意識してくれたら
もしも君が、
もしも君が、
もしも君が、、、、
そんな幻想を思い浮かべる私は、君のことがたまらなく好きなのだろう。
部屋いっぱいに並べた君の写真。
録音した君の声。
君を見つめていられるだけで、幸せなのだろう。
ああ、私は高望みをしてしまった。
初めて私の部屋にやってきた君は、もう動かなくなっていた。
こんな状況でも、君が私の部屋にいることを嬉しいと思ってしまう私は、頭がおかしいのだろうか?
、、、
もしも君が、もう一度目覚めてくれるなら
「君だけのメロディ」
そっと君を抱き寄せると、どくん、どくん、と微かに聞こえる心臓の音。
その規則正しい、温かな音を聞くことが好きだった。
君のメロディを聴くことは、あなたの胸へ飛びこむことのできる私だけの特権だった。
君だけのメロディで、私だけのメロディだった。
君は違う人を抱きしめていた。
“浮気”という言葉が頭を掠めた。
君は笑っていた。
頭の中がぐわんぐわんするような感覚がした。
雨が降っていた。
衝動だった。
君は驚いた顔のまま固まっていた。
君の胸に耳を押し当てても、雨の音しか耳に入らなかった。
正気に帰った。
やってしまった。
もう遅かった。
「I love」
I love you
安っぽいシールに書かれた文字。
馬鹿馬鹿しい。
こんなので、私の愛情を示せると思っているの?
「あなたは私のこと、本当に好き?
ごめんなさい。私、あなたの愛情を感じられないの。」
そう言って出て行こうとしたあなた。
あなたのために手間をかけて作ったご飯。
あなたのために綺麗にアイロンをかけた洗濯物。
あなたのために飼い始めた猫。
あなたのために引っ越した部屋。
何を間違った?
私の愛情は伝わらなかった?
安っぽいシールをつけなきゃいけなかった?
「I love you」なんてくさいセリフが必要だった?
私、本当にあなたのことを愛しているのよ。
だから、離れていくなんて許せない。
私の愛が伝わらなかった?
そんなの、もう知らない。
まだ暖かさの残るあなたにそっと触れる。
これからは、あなたは私のお人形。
これからも、愛情を込めてお世話するわ。
本当に、あなたのことを愛しているのよ。
そうね。
最初から、こうしておけばよかった。
「雨音に包まれて」
雨の音が好きだ。
雨が降っている時、窓を開けると、雨音と湿った土の匂いが入り込んでくる。雨で冷えた空気が頬を触れる。
夜寝る時、雨の音が聞こえると安心する。
そっと万年筆を手に取る。
「今日は雨が降っていて嬉しい」と日記帳に書く。
ノートのページを閉じる。
雨音に包まれて、このまま消えてしまえればいいのに。
「美しい」
あなたはきっと完璧、だと思う。"頭がよくて、運動もできて、誰にでも優しく、常に微笑みをたたえる顔は驚くほど美しい"なんて、完璧すぎて、もはやロボットではないか。少しの人間性もなくて、怖しいとさえ思う。思っていたのに。
その日、あなたは朝から少し体調が悪かった。その時は、少し意外だなと思っただけだった。完璧なあなたでも体調不良はあるのかと。でも、しばらくしてから何かがつかえるような、えずくような音が聞こえて、どうやらあなたが吐いてしまったらしい。あなたは涙目で汚物に塗れていて、あたりからは胃液の匂いがしていた。
初めて見たあなたの弱み。人間らしさ。
あの時初めて、本当に、あなたを美しいと思った。