「勝ち負けなんて」
ある期末考査の日、あなたと勝負をすることにした。こんなこと言っちゃ悪いけど、私の方が賢いから、あなたが一教科でも私より点数が高ければあなたの勝ち。
結果はあなたの勝ちだった。美術の点数だけ、あなたの方が点数が少し高くて、だから私の負け。本当に少しの差だったから悔しくて、でもあなたが嬉しそうにしてるのが可愛くて。だから勝ち負けなんてどうでも良かったの。あなたの笑顔を見るためなら、何回だって負けてあげる。
「渡り鳥」
あなたは、渡り鳥。笑顔で私のところに来たと思ったら、すぐに他の人のところへ行ってしまう。自由気ままに、渡り歩く。だからいつも、私は追いかける。目で追ってしまう。
バードウォッチングも悪くない。
「さらさら」
私はあなたが文字を書いている姿が好きだ。さらさらと美しい文字を、文章を、物語を紡いでいく。筆で書いても、万年筆で書いても、鉛筆で書いても。全てに物語が詰まっている。きっと私は一の一文字でもあなたの文字を見分けられる。
そんなあなたが私のためだけに文字を紡ぐ。今日は私も一緒に。フェンスを乗り越えて、靴を脱いで、手紙を置いて、大空へ飛び立つために。
「これで最後」
あいつが笑っている時、大抵はいいことがない。誰かがそう言った。それでも私はあなたの笑顔が好きだった。初めてあなたの笑顔を見た時、その美しさに思わず息を呑んだ。一目惚れだった。最初は信じることができなかった。だって、ありえない。私が同性のことを好きになるなんて。だから、すぐに忘れたいと思った。勘違いだと思いたかった。放課後、居眠りから目覚めないあなたの頬にそっとキスをした。これで最後。この気持ちを捨ててしまおう。そう、思っていたのに。
いつの間にか目を覚ましていたあなたは、にっこりと笑っていた。
「君の名前を呼んだ日」
「君って、あんまり人の名前を呼ばないよね。」
ある日、君は言った。
人の名前は絶対に間違ったらいけないものだと思うし、大切なものだから気軽に呼ぶのは怖い。そう言うと、あなたははにかむように少し笑った。
「そっか。じゃあ私のことを本当に大切、そばにいてほしいと思った時に名前を呼んで。そしたらいつでも駆けつけるから。」
棺桶の窓から少し覗くあなたの顔は青白くて、それがたまらなく寂しくて、つい、あなたの名前を呼んだ。その響きに堪えていた涙が止まらなくなる。いつでも駆けつけてくれるって言ったのに、本当に必要な時にあなたがいないなんて。
私が初めて名前を呼んだ時、すでにあなたはいなかった。