公園の土手の敷石のそのなかに、色のある光沢を見つけて立ち止まった。それをじぃとみてみると、なんの瓶飲料の欠片なのか、少し濁ったような綺麗な硝子片だった。
後ろから小さな子供が駆けてくる。立ち止まってそれを眺める自分の前に飛び出し、しゃがみこみ、これを拾う。「ああなんてきれいな硝子なんだろう!宝石みたいだ!」
子供はあたりを見回し、このきれいな石のいくつかあるのを発見する。そうして手のひらに拾い集める。子供の手のひらの中、捨てられたがらくたの硝子片が宝箱の中に招かれる。敷石の中に微笑むような温度が見える。かつての子供がそれを眺める。手を伸ばして、ひとつ、拾った。
しんと冷え込んだ空気を肺に取り込む度に、つんとした空虚さが胸の中に木霊した。持久走の日に学校に行きたくなかったことを思い出す。心は特に、あのときを通り過ぎてはいないけれど。
いっそ足の一本や三本でも折れてしまえばいいと思っていたけど、そうしてなくてよかったな、って今でもあまり思えていない。嫌だったなあ…を、あと数十年すれば笑うようになるのだろうか。秋風が指の先を撫でる。手袋はいつも無くすからひとつも持っていない。今年こそを繰り返して今度こそ、って…また失くしちゃうんだろうか。瞬く間に消えて行く季節が木々の色をひっくり返していく、その様子がちょっと愉快だ。
歩いてきたんだね。こんなところまで歩いてきたんだね。
飛べないことを隠すためにどれだけ痛めたんだろう。
貴方の望む、"いいよ"を用意できなくってごめんね。
その人じゃなくて悪かったね。どうしようもない挫折や諦めに手を引いていってやれないことを、たぶん弱さだって思うけれど、飛べない鳥だって多いよ。
私は、別に、いいよ。追いつけなくたって。
一人は好きだな。そんなことで貶める言葉を口にしなくて済むんだって思うから、一人は好きだよ。
こんな生き物がここに居る意味があるといいなと思うから、さよならはまだ、言わないことにした。今更だけど。
誠実さのしるしになるなら、わたしいくらだって馬鹿を見るよ。ずっと一緒だよって耳打ちした幼さを、ね、ずっと二人で大事にしてようね。べつべつの人間同士がおんなじ形になれるわけじゃないから、ぴったり重なることなんてできないけど。わたしは別人になったわけじゃないし、あなたも別人になっていくわけじゃないし、これからも今がずっと、息をしおわるまで続いていくように願っている。そういうのって人としてはさ、棘のない花みたいだし、花を食べてる悪魔みたいだ。真ん中にはまっしろなものがあるって信じてしまう人生を、できうる限り、送ってみようと思うよ。
一人きりで傘をさして、黙って雫は砕けてゆく。肩を濡らす湿度だけは一緒に下を向いてくれそうだった。暮れの日々に沈んだ街で、底を擦り減らして歩いている誰かにもちゃんと屋根があるだろうか?無事に帰れるだろうか。
ありがとうが言えない心境は冷たさとかではないと思った。傷みきってしまう前に、傷跡に絆創膏を貼って。一人きりで傘をさして、痛みで雫は砕けてゆく。誰もが二人にはなれないから、肩を濡らさなくていいよ。下を向いて幸せそうな誰かの声が耳に入らないことに、救われてしまっていることを、恥じないでどうか休んでいてください。明日も降りますように。