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10/8/2023, 5:02:24 AM

 夢を見ていた。からには、覚めないでくれと思った。死に至る予行練習なら毎晩しているはずなのに、昔よりも駄目な人間になったような気がして。
 毎日、少しずつ、少しずつ、壊れていってしまう。いつこの胸中の如何に不誠実なのかが周目に晒されて、はりぼてに針を刺されてしまうのか、それについて恐れながら。
 明かされてしまうのであれば、知られないまま終わりたい。神聖さのために生きられるほどの強さは、持ち合わせていないように思えた。そうであるなら。
 叶わないことに意味のある夢だってあるのだ。できなくなっていくことばかりの時間の中で、そう。そのまま、力を込めて。どうかこのまま眠らせて。

10/6/2023, 10:36:49 AM

 未練がましいんだけどさ、失くしたくないものばっかりなんだ。公園の滑り台がテーマパークみたいな大きさを無くしてから、何年経ったのか考えたくもないけど。道端の草を編んで歩いて許されるのはいくつまでなんだろう。でも、ずっとそうしていたいなって思ってるのに。
 置いていかれるみたいに感じてるけど、多分置いていってるほうなんだ。横断歩道は手を上げて渡ろうね。そう言って手を引く側になる。そうして、いつかは黄色い旗を持って。
 過ぎ去ったあの日を想う一瞬間にも、一つ一つ世界を追い越していく。侘しさと恐ろしさみたいなものが、海に響く音みたいだ。命の波に抱かれたまんまで、どこまで置いていくんだろうな。

10/6/2023, 4:43:18 AM

 ねえ、あんなに綺麗に光っている星がとうに死んでいたとしたら、きみはどうやって生きていくの。何百年も何億年も前に死んだ星の断末魔を、たぶん一度は見てきたと思うんだけど。
 ずうっと、明日を生きていけるんだって漠然と思っている。真実味を帯びて存在する不安や恐怖を分からなくなってしまうような病を抱えたまま、最期までいけたら、嬉しいな。
 胸の中で硝子が割れる音は、たぶんずいぶん前に終わっていて、もしもきみの光がきみの断末魔だったらどうしよう、って。だからこれは、祈りだよ。砕けた星を繋いで、見ているんじゃありませんように。

10/3/2023, 11:21:52 AM

 もし過去に戻れたらどうする?未来が見えたって変えられるような気がしないや。みんなが脇役じゃないから。
 そんなもの乞うなら生まれてこなければよかった。運命の資格がないと出会えないって信じているなら、たぶん、どうにもしてあげられない。
 本当に出会った人同士は、二度と別れたりなんかしないと思うよ。かつての登場人物が、いなかったことになったりなんかしないでしょう。光景は思い出に似ていた。雪くらいの厚さで胸に積もるような余情だった。それでも、奇跡をもう一度。必然だって教えてほしい。

10/1/2023, 12:18:29 PM

 これから死んでいくんだろうな。って人を前にして言えることなんてないよ。帰りたいなって思っていた。ここではないところへ。
 夜らしい闇に染まり始めた街がバスの窓から見えた。重そうな暗雲が血を流すみたいに夕暮れの赤をちらつかせている。足は疲れていたけど、バスは踏切を静かに待っていた。踏切の中だけはやけに明るくて、そこを通っていく人は光を通り過ぎていった。闇から来た人の頭が、一度光を通って、また向こうに歩いていった。
 バスが進みだした。光は簡単に私の上を通って、向こう側に消えていった。また一つ、時間を通り過ぎた気がした。

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