「秋は恋の季節なんだって」
そう笑うあなたを「ふざけんな」と睨み付ける。
こちとら春夏秋冬、年がら年中恋の季節じゃボケ。
子供の頃、「宝箱」が好きだった。
それは、図工の授業で作った作品だったり、母にねだって買ってもらったピンクのアクセサリーケースだったり。
素敵な宝箱を完成させるために、中になにか良いものを入れなければとさえ思っていた。
私にとって大事にしたかったのは、宝の箱そのもので。
大事にしたい物なんて、大して持ってはいなかったけれど。
それでも「宝箱」に胸を踊らせる子供だった。
今でも、可愛い小物入れなんかに心惹かれる。
中に入れたい物なんて、そこまで大事な物なんて、すぐには思い付かないのだけれど。
もっとこの時間が続いてほしいと思う時。
「時よ止まれ」と思うものなんだけれど。
落ち着いてよく考えると、止まっちゃ困るんだよな。
だって時が止まっちゃったら、会話も動きも止まっちゃうじゃない。
時間が流れてないと、楽しいも嬉しいも動かないでしょう?
夜景は残業でできている。
美しい夜の景色を作っているのは、そんな時間まで仕事をしている労働者なのだ。
華の金曜日。午後8時。
システムトラブル、先方からの無茶な要求、予定があると定時退勤した後輩に、私に仕事を押し付けた上司。
あれやこれやが重なって、私は一人で夜景の欠片をつくっている。
節電の名目でほとんどの電気が消されているので、担っているのはほんの一部分だけれど。
それはそれで空しいなぁ...。
あぁ、やりたいことあったのに。
スーパーで好きなお惣菜買って晩酌して、久々に浴槽にお湯ためてさ。
たまには顔パックなんかして、今頃は昨日配信されたゲームをやっているはずだったのだ。
華金に浮かれた世の人々よ。
その一部分が私の恨み節であることを忘れてくれるなよ。
自分はどちらかといえば冷めている性格で。
友人達からの評価も大きく離れてはいない。それなのに。
「後ろ姿の写真撮ってもらっていい?」
映えるやつ、と君は笑ってスマホを差し出す。
そんなこと気にする性格だったんだ、と返事しながら、僕はそれを受けとる。
花畑の前に立った君に、僕はカメラを君に合わせる。当然のことながら顔は見えない。
その一瞬。
あぁ、君の顔が見たいなんて。そんなこと。
僕はいつからこんなこと思うようになったのか。
自分の考えに自分で驚く。
いつの間にか僕のもとへ戻ってきた君が「美人に撮ってくれた?」と笑う。
「どうかな」なんて言って。
さっきの自分の頭の中の言葉は、絶対に言ってやらないと、勝手に決めた。