かくれんぼの途中
ふたり、こっそり抜け出して
草むらで分け合う
赤い実
どっちが甘いの、酸っぱいの
赤い方が甘いよ
指先で一粒ずつ摘んで
青空に掲げる
こっちが甘くて、美味しいの
ほら、あげる
そっちはどうなの、酸っぱいの
次、また来ようよ
いっしょに食べよ
吹く風、緑が揺れる
かくれんぼの続きに戻ろうか
#89「Red,Green,Blue」
彼女の膜を通過して
私は生まれた
歪な愛に守られて
私は育つ
彼女は異物を排除した
私は彼女の大切な大切な
もう一人の彼女であること
それが最も価値のあることだと
教育されて大人になった
大人になった私は
膜を容易く貫くことを覚えた
嘘の愛で汚したかった
彼女が大切にしてるもの全部
壊して踏みにじりたくなった
いつだって私は
心の中で叫び声をあげていた
でも、彼女にその声は届くことは無いから
男に預けた肉体で喘いだ
私に価値なんて無くても
抱きしめてよ
ねぇ、お母さん
#88「フィルター」
ぼくは何も知らなかった。
ぼくのお父さんも、お母さんも。
おじいちゃんもおばあちゃんも、きっと知らなかった。
ぼくたちはただ生まれて、
生きることに精一杯だった。
それが悪いことだなんて。
ぼくたちがただ、ここで暮らしていることが、
「害」になるって、ここの人間が決めたんだ。
いつからそんなことになったのか、
ぼくたちは知らなかった。
ぼくたちが生まれるずっと前、
ぼくたちの祖先をここに連れてきたのは人間なのに。
ぼくたちは、ぼくたちの愛で生まれた。
家族もたくさん増えた。
ぼくたちに似た生き物はいるけれど、
「あいつらとは仲間じゃない」と、ここの人間は言った。
だから、ぼくたちがここに居続けるのは「害」なんだって。
ぼくたちは、どこへ帰ればいいんだろう?
帰る場所なんて、知らないよ。
ぼくは生まれてから、ずっとここにいる。
でも、ぼくたちはいなくなった方が良いって。
ぼくのお父さんも、お母さんも、
おじいちゃんもおばあちゃんも、
みんながいなくなったら、たくさんのここの人間が喜ぶんだ。
ぼくたちの祖先がもともと暮らしていた場所へ
帰りたくても、どこなのか知らない。帰り方もわからない。
ぼくたちみんながいなくなれば、
どれだけの人間が喜んでくれるんだろう?
ぼくたちは悪いことをしたくて、ここにいるんじゃないよ。
でも、ここの人間が決めたんだ。
「お前たちは、たぬきの仲間じゃないから。一匹残らずいなくなれば、ここの人間の暮らしは良くなるんだ」と。
#87「仲間になれなくて」
夢の中の君は
窓辺で
雨を眺めている
僕が何を話しかけても
振り向きもしない
だが、会話は続く
「雨、止みそうにないね」
「そうね」
「出かける予定がなくて良かったよ」
「そうね」
「コンビニくらいなら、今行ってこようか?」
「そうね」
「それともピザでも頼んでみる?」
「そうね」
間違いなく
夢の中の君は君だったけど
僕の知ってる君ではなかった
もう別れてから随分経つけど
あの頃の君に雨を降らせていたのは
僕だったんだね
#86「雨と君」
黒板に書く
明日の日直担当は、キミの苗字と隣にもう一人
一日違いのすれ違い
神様の意地悪に舌打ちしたって、
しょうがないね
いつか巡り会うボクらの未来に、
キミの下の名前がボクの隣に在れば、それこそが運命さ
キミに話したいことは、たくさんあるよ
たとえば、キミと二人で秋の夜空を見上げることができたなら、
アンドロメダの話を聞いてくれるかい?
帰宅時刻のチャイムが鳴る
今日の日直はボク一人
夕日が差す教室の隅で、日報に書く
「特になし」
#85「誰もいない教室」