青白い光に包まれながら、歩いてみる。
寒色しかないとは寂しい印象でしかなかったけれど、
人も賑わっている中では不思議と寒くはない。
一体どれほどのあかりが灯っているのだろうか。
歩みを進めていくうちに、そんなことを考えても仕方がないと、ただただ見上げていた。
少しずつ夜の冷気が、肌にじんわりと染み込んでくる。
大勢の人とすれ違うのに、知り合いがいないだけでこんなにも違うものなのだろうか。
たった一人で眺めているだけでは、ダメなのだろうか。
するとコートの袖が後ろに引っ張られる。
俯いているから顔は分からないけれど、走ってきたのか、肩が大きく上下に動く度に息遣いが聞こえてくる。
「よかったら、これ」
少しよれた紙の手提げには、カップが二つ。
奇跡的に中身は溢れていないらしい。
ひとつ取り出すと、震える手でゆっくりと飲み込んだ。
「……ぬるい」
その一言で、今にも泣きそうな顔で見上げて来たので、思わず笑いが込み上げた。
「冗談だって、あったかいよ。ありがとう」
誰かがいるだけで、こんなにも違うなんて。
見上げると、イルミネーションの光が
さっきとは違って、暖かく感じた。
大きく口を開ける。
瑞々しい苺が乗った、
大きな一口サイズのショートケーキが
フォークに乗せられて、
今か今かと待ち構えてる。
これこそ幸せのひと時。
さぁ、私の口にダイブしなさいと
今にも放り込む寸前で、
けたたましい目覚ましに
目が覚める。
あれ、ケーキは??
夢と現実
かつて私はこの手を取った。
そうして、全てを失った。
それでも、私は幸せだった。
何も知らない私は、無知な私は、
何処までも愚かで、
清々しいほどに真っ直ぐだった。
最期まで、この手を信じていた。
けれども私は知ってしまったのだ。
この手を取ることは、即ち
闇へ堕ちていく、ということを。
何故だろう、あれ程までに美しいと感じていた
微笑みが、酷く歪んで見えるのは。
私のことを見下して、
利用しようという顔に見えてしまうなんて。
何処か心の奥でストンと納得して。
私はこの手を取るのをやめる。
貴方には興味なんてありませんよと
猫のように顔を背けて傍を通り過ぎた。
そう、私はようやく光を見つけたから。
光と闇の狭間で、私は光に手を伸ばす。
今度こそは、この世界で生き延びてみせる、と。
一瞬であり、
まるで永遠かのよう。
伸ばした手は何も掴めない。
あの人の瞳に私は映らないのだと、
そう理解してしまったから。
けれど去り行くその背中に訴えかけるのだ。
これは夢なのだ。
だから、
振り向いてくれるのだと。
物語が、まだ続くはずなのだと。
終わらせないで
永遠なんてものは、
きっとどこにもなくて。
それを信じられるかどうか。
そう思いたいだけ。
いつまでも幸せに暮らしました、
なんて言葉は
所詮おとぎ話の中にしかなくて。
幸せになるために
結婚するんじゃないの?
たぶん正解なんてないから、
誰にも聞けずに心の奥底で漂っている。
しあわせのかたちは、
みんな違っているだろうから。
他人と他人が一緒になるのは
幸せが倍増して、
辛いことも掛け合わさるのだろう。
それができない私は
他人を信じられないまま、
今日も一人で微笑んでいる。