突然の別れ
人生、何があるかなんて分からないものだ。本当にそう思う。こんな経験、俺には無縁だと思っていたが、どうやらそんな事なかったらしい。
「昨夜、○○県○○市、○○にて遺体が発見されました。遺体の身元は既に分かっており、警察は何らかの事件性があるとみて調査を進めています。この男性は昨夜───」
冷水をかけられたような感覚が俺を襲った。お前、この間まで元気だったじゃんかよ。
…夢かもしれない、なんて希望も虚しく、俺は今コイツの葬式に来ている。
「…お前、今日で20なんだよな。」
おめでとうの一言すら言えなかった。こんなにも突然の別れが来るなど到底思ってもいなかったから。
「…誕生日、おめでとう。…好きだったよ。」
恋物語
「お前恋愛小説って好き?」
「…急に何?」
俺って語彙力ないのかなぁなんて思いながら突拍子もない事を聞く。何がどうしたら急にこんな事聞こうと思うんだよ
「いや、ほらお前図書委員じゃん?色んな本のレパートリー網羅してるのかなと」
「図書委員って言っても委員会だからね所詮。俺はそんなの読まないよ」
「好きな人とかいないの?そういう時こういうの参考に〜とかなんないの?」
「なんで好きな人いる前提で話進められてるんだろ…そもそもいないし、好きな人とか。」
アイツはだから急に恋愛小説の事聞いてきたのか、と納得している様子。そんな事よりも俺は好きな人がいない、という言葉に安堵する。まだ付け入る隙はあるという事か。
「…へへ、いないのか。好きな人」
「えっ笑い方きもちわるっ…」
「酷くね??」
「酷くねぇよ…思った事そのまま言っただけだし…」
それが酷いんだよ、と言う前にアイツの言葉が過ぎる。
「…お前は?いないの、好きな人。」
先程まで合っていた目を逸らし、本に視線を向ける。この話題の流れでそんな事されると、どうにも期待してしまうものではないだろうか。心做しか顔が少し赤いような気もする。
「俺?俺はなぁ…」
仮に俺の勘違いだったとしてもどうだっていい。なんとしてでも“トモダチ”という関係から進んでみせる。
(…「恋物語」で終わらせる程、可愛い男じゃないんでね。)
真夜中
なぜだか、いつもより長く感じる。恋人といると時間が早く過ぎる気がする、というのは迷信だったのかもしれない。
「…ねぇ、何考えてんの。俺以外の事考える余裕でもあるわけ?」
「…お前の事考えてたんだよ…」
深夜零時。所詮真夜中だとか言われるような時間帯。
何をしているのかと問われれば、…夜の営み、とでも言うのだろうか。この行為は。
「…なぁ、本当に何考えてんの?」
「そこまで不安がらなくても…。特にこれといった事は考えてないよ。」
「ふぅん…。…じゃ、頭の中俺で埋めてくれよ。…ほら、こっち集中して。」
「…っん、」
暗い部屋。カーテンから覗く月明かり。
…夜はまだ長いらしい。
愛があれば何でもできる?
「なぁ、愛があれば何でもできると思う?」
「…急だな。」
突然何を言い出すのかと思ったら。
「…何でも…って訳じゃないんじゃないか?あと人による。」
「それ言ったら質問に意味ねぇじゃんかよ!!」
「そう言うお前はできんの?」
「ん?…できるよ。」
そう言いながら距離を近くしてくる。そして唇に──
触れた。
「…お前の為なら何だってしてみせるよ。つーかする。」
「…なんで?」
「えぇ?…好きだから、じゃ理由になんねーの?」
「…知らない」
「お前俺に言わせて満足してんだろ。お前からもなんか言えよ。…それとも俺なんかの為じゃ何もできねぇって?」
「はぁ?めんどくさ…」
どうしてやろうか。ここまで来たら何かしら言うまで終わらなさそうだ。
「…俺が出るまでもなく、お前が何だってしてくれるんだろ。」
「お前は何にもしてくれないのか。」
「…愛故に、委ねてるんだよ。お前に。」
「…お前さぁ…」
腰を抱かれた。距離近いぞ、お前。…満更でもないけどさ。
「…好きだよ。…俺の為に、なんでもしてよ。」
「…っはは。…仰せのままに。」
後悔
多分、一生ものだと思う。この後悔は。お前を亡くしてしまう以上の出来事が、俺の人生の中に一つでもあっただろうか。
いや、ない。確実に断言できる。ない。
こんな懺悔などした所で無意味だろう。お前も、こんな俺を見てきっと慰めの言葉をかけるのだろう。お前のせいじゃない、お前は悪くない、など。
でも、この後悔を背負って今後生きていくのだとしたら、お前の記憶が俺から無くなる事はないのだと、少しばかり安堵してしまった自分もいる。亡くなったとしても、記憶はここにある、後悔はここにある。
お前と共に生きていけるようなものだろう。
そう考えたら、この後悔も懺悔も、悪くは無いなと思った。