たまっている有給休暇を使い少し早い夏休みをとり、1人温泉旅館に来た。
最近は女のお一人様でも偏見なく泊まらせてもらえるので嬉しい。
鄙びたその旅館は木造で、部屋も5室しかなく、まだ夏休み前の平日ということもあり、泊まり客は私しかいなかった。独り占めだ。
2泊目の夜だった。
「いいお風呂だった。」
部屋の明りを落とし、枕元のランプシェードだけにして、敷かれた布団に横になり天井を見上げると、節目模様と目があった。
え?あぁ、点が3つ三角形になっていると顔と認識するあれね、何とか現象って名前がついているんだったっけ。
あれ?昨夜はこんな節目あったっけ?
あぁどうしてだろう。とても眠くなってきた。まぶたが完全に閉じる直前、その節目模様の口元がニヤリと笑ったような気がしたが、私は猛烈な眠気には勝てなかった。
節目模様の顔の目の奥には、視線の先の獲物を見つめるぎょろりとした目玉が光っていた。
お題「視線の先には」
I'll write it later.
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サークルの夏合宿2日目。
休憩時間に皆に配られた棒つきアイス。シャリシャリとした食感と冷たさで、熱を持った体が息を吹き返す。
食べ終わると皆棒を見て「ハズレ。」「私も。」「俺もハズれた。」口々に言ってはゴミ箱に棒を捨てていく。
どうやら私だけ当たりみたい。
ごめんね、みんなにはナイショ。
でもこんなことで運を使っちゃうのもな、なんて
欲深いことを考えたりして。
さて、後半も頑張りますか。
お題「私だけ」
この喫茶店に日曜日の朝に来て3回目のことだった。
3回とも同じソファ席に通されると、水の入ったグラスが2つ置かれた。
「私1人だけですけど?」ときくと、「先日お見えになった時も最初の時も、お客様はメニューを逆さまにして、どなたかにお見せになっていらっしゃるようでしたので、大切なお連れ様かと。」と女主人は言った。よく見ているものだ。
「ごめんなさいね。変でしょ?生前の主人と、こうして日曜の朝にコーヒーを一緒に飲んでいて。つい、どれにする?ってききたくなってしまって。」
「そうでしたか。」
「あの人とはお見合でね。それが…フフ」
私は遠い日を思い出し笑ってしまった。
「あの人、出されたアイスコーヒーに、ガムシロップじゃなくて角砂糖を5個も入れちゃってね」
「え?角砂糖?5個も?溶けなかったでしょう?」「そうなのストローで突き刺して崩そうとして。そしたらコーヒーがあちらこちらにはねてしまってテーブルがコーヒーだらけ。私、可笑しくって大笑いしてしまったの。そしたらあの人私をみて、そんなにケラケラと明るく笑う人なら家庭も明るくなるだろうって言ってね、お見合いが進められることになったのよ。あ、ごめんなさい、他人の昔話につきあわせちゃって。」
彼女は気にするなというように「ではモーニングとコーヒーでよろしいですか?」と私にきいた。
「お願いします。」私が言うと、彼女はカウンターの中へ戻っていった。
しばらくして私のモーニングセットとともに、アイスコーヒーが1つテーブルに置かれた。
私が彼女を見上げると、「お連れ様にもぜひ。恐れ入りますが、よろしければガムシロップをお使いいただけますよう、お伝え願えますか?」そう言って優しい笑顔を残し、他の客の元へと向かっていった。
お題「遠い日の記憶」
街路樹の上には青い空が広がっている。
通学途中なのに既に強い日射しにうんざりだ。
「あー暑っ、クソ天気いいなー、あー死にてぇ。」
口をついて出た言葉に、すれ違ったオバサンがギョッとした顔をしてこっちを見た。
やばっ、聞こえちゃったか。私はちょっと首をすくめて足早に学校に向かう。
別に本気で死にたいわけでも、死にたくなるような目にあっているわけでもない。何なら恵まれている方だと思う。
でも私の生死は私自身にすら何の影響もない、という事実に気づいちゃったんだよね。
自分すらどうでもいい生き物の私。
とはいえ、ホントに死んでみる勇気もなく、ただただ無為な毎日を送るだけの日々。
同じように「つまんねー」を連呼してたはずの友達は次々にやりたいことを見つけ、それぞれが目標に向けての受験勉強をしている。私だけが取り残されてる。未だ進路希望に何も書くことができない。
こんな私でも、いつか「あー、クソ天気いいなー、生きてー。」って思う日がくるのか。
どこにも希望の見つからない17才の夏。
お題「空を見上げて心に浮かんだこと」
終わりにしよう。
終わりにしなければ。
た、頼むから終わりにさせて。
もう入らないって!
わんこそば100杯は無理だよ。挑んだ僕が悪かったよ。
お椀の中の一口大のそばをきれいに食べてお椀のフタをかぶせたら終わりのはずが。
「はい、ど~んどん」
給仕のお姉さんがリズムよく僕のお椀に次のそばを放り込む。
最初は良かった。70杯を超えたくらいだろうか。
もうお腹いっぱい、苦しい。
「はい、じゃ~んじゃん」カパッ。
やったフタができた!
と思ったら、給仕さんが、「短いのも、1本でも残ってませんか?」ときいてきた。
え?短いのも?そう言われると不安になって、今閉めたフタをそっと開けて中を見ようとしたその時、
「はい、ど~んどん」
給仕さんがすかさず、そばの入った椀をぼくの椀にねじ入れた。
くーっ!
ここからが本当の長い戦いの始まりだった。
絶対に負けられない勝負だ。
今度こそ終わりにしてみせる。そう思いつつもフタをする隙を見つけられないまま、空いたお椀の数が増えていく。
満腹すぎて頭が働かなくなってきた。何杯だ?もうわからん。でも。
「はいじゃ~んじゃん」カパッ。
よし!!フタをしたぞ。今度は完璧だ。もう中は絶対に見ない!
容赦のない給仕さんとの攻防の果て、やっと勝利を手にした。僕はTシャツの下からのぞく満腹ではち切れそうな腹を隠すこともできず、壁にもたれかかった。
「わんこそば102杯達成おめでとうございます。」
僕は、給仕さんに記録の書かれた記念の木札をもらい、吐き気を抑えつつ宿泊先のホテルに帰ったのだった。
お題「終わりにしよう」