この喫茶店に日曜日の朝に来て3回目のことだった。
3回とも同じソファ席に通されると、水の入ったグラスが2つ置かれた。
「私1人だけですけど?」ときくと、「先日お見えになった時も最初の時も、お客様はメニューを逆さまにして、どなたかにお見せになっていらっしゃるようでしたので、大切なお連れ様かと。」と女主人は言った。よく見ているものだ。
「ごめんなさいね。変でしょ?生前の主人と、こうして日曜の朝にコーヒーを一緒に飲んでいて。つい、どれにする?ってききたくなってしまって。」
「そうでしたか。」
「あの人とはお見合でね。それが…フフ」
私は遠い日を思い出し笑ってしまった。
「あの人、出されたアイスコーヒーに、ガムシロップじゃなくて角砂糖を5個も入れちゃってね」
「え?角砂糖?5個も?溶けなかったでしょう?」「そうなのストローで突き刺して崩そうとして。そしたらコーヒーがあちらこちらにはねてしまってテーブルがコーヒーだらけ。私、可笑しくって大笑いしてしまったの。そしたらあの人私をみて、そんなにケラケラと明るく笑う人なら家庭も明るくなるだろうって言ってね、お見合いが進められることになったのよ。あ、ごめんなさい、他人の昔話につきあわせちゃって。」
彼女は気にするなというように「ではモーニングとコーヒーでよろしいですか?」と私にきいた。
「お願いします。」私が言うと、彼女はカウンターの中へ戻っていった。
しばらくして私のモーニングセットとともに、アイスコーヒーが1つテーブルに置かれた。
私が彼女を見上げると、「お連れ様にもぜひ。恐れ入りますが、よろしければガムシロップをお使いいただけますよう、お伝え願えますか?」そう言って優しい笑顔を残し、他の客の元へと向かっていった。
お題「遠い日の記憶」
7/18/2024, 3:44:05 AM