ナナシナムメイ

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7/12/2024, 11:12:21 AM

〈お題:これまでずっと〉ー評価:凡作

彼は今日まで、とても真面目だった。
いや、これからもきっと真面目なのだろう。

彼は交通事故に合って記憶を失った。
私との出会いも、そこから築き上げた関係性も彼は一人私を忘れることで、私の伸ばした手は空を切る。

互いに手を伸ばせば相手に触れ合える。
そんな関係性に彼はいた。
だのに彼は一人遠くに行ってしまった。

親の代わりに看病をするという事になって、物理的な距離はむしろ程近くなった。
彼には決して「好き」という気持ちはない。
記憶を失う前ならば彼も私を「好き」とは言わなかっただろう。
これは、男女の友情が成立していた数少ない例であった。

けれど、今の彼は私に「一目惚れです」と告白した。

私には分かる。病的不安から最も親身になっている異性に依存する。引き留める手段としての「好き」であると。
彼の「好き」は記憶を失っても真面目に生き残る手段を模索した結果に思う。

事情を忘れた彼には、親の見舞いがない事が何か重大な事に思えたに違いない。

私は、返答に迷っている。
記憶を失った彼となら、新しい…恋人としての関係性を築く事ができる。
私は、私の意思で選ばなければならない。
彼との新しい関係性を求めるというのは、些か抗い難い魅力を感じる。
今後、病院に訪れる際に、とても便利な文言でもある。

これまでずっと、私は男女の友情に酔いしれていた。これほどに楽しい関係性は見出せないとさえ思っていたのだ。

これからは…どうだろうか。
冗談でも好きと言われた相手と男女の友情があり得るだろうか?
これからは…きっと…「これから…よろしくお願いします」

私は、私が伸ばした手を彼の喉元に突き立てた。

7/12/2024, 12:01:21 AM

〈お題:一件のLINE〉ー評価:無し

何かの間違いで、死別した彼からLINEが来たら今度こそ伝えたい。

彼のSOSに気が付けなかった。
彼の「普通を装った」下手な演技に騙された。
綻びなんて思い出せば出すほど出てくる。

人伝いに聞いた死が、彼を知った最後の一言でもあった。

「おはよう」というたわいもない一件のLINEが最後のチャンスだったのだ。

7/10/2024, 11:01:00 AM

〈お題:目が覚めると〉ー評価:駄作

そこは、浜辺と森の境界線に築かれた防衛拠点である。

諸外国の侵略から身を守る為に存在するため、性質上、常時警戒する必要性に駆られていた。

海の脅威といえば、津波などの災害が一番に警戒される。

津波への対処として、敵の侵攻を阻止できる条件下で最も適切な処置は人工的な丘を幾つか作って、津波の勢いを殺してしまうことである。

平時には見張り台として、有事には防壁としてその丘は機能している。

認識としてはまさにその通りであるが、俺にとっては拠点で訓練しつつ海を眺めるだけで生活できる良い場所である。

諸外国の存在だって言葉の通じない漂流者が幾人いるというだけで、攻めてくると警戒する必要は本当にあるのか、疑問に思ったりする。

上層部のこの判断に救われて俺はこんな楽な仕事につけているから、文句はないが。

「今夜は少し荒れてるな」

今年も蒸し暑くなってきたのだ、海が荒れるのも仕方のない事。

寝て覚めて外を見れば、きっと穏やかになってくれているに違いない。

「という、夢を今日二度寝をしたら見た。目が覚めると夢なのか妄想だったのかよくわからないよね」

(…最近腰を据えて考えられてないです)

7/9/2024, 1:19:56 PM

〈お題:私の当たり前〉ー評価:凡作

当然、我々は生きている。
そこに主義主張が発生するのは道理である。

生きる目的が違えば、進む道も異なる。
因って、認識する事象は自ずと万化する。

その事象に先駆者は名前を付けて、理屈を付けて普遍とする。

然るに生きる目的もなく、日々を過ごしているならば、なるほど。

己が道も在らず彷徨えば、他者の道に土足で上がり込むこともありえよう。

その道を歩むに必要な道具もない無知蒙昧な迷い他人にしてみれば、知らぬ存ぜぬで通せぬ明確な道はさぞかし辛い事だろう。


自己分析すら、できておらぬからそうなる。
無能ゆえに希望も見出せず、凡弱がゆえに夢すら見れず、臆病風に吹かれて前すら見ない。

己の死を肯定するならば、せめて醜くとも生命賭して抗って現状を変える努力をしてみることだ。

「それが、私が『当たり前』に実行したいことである」

7/8/2024, 12:33:35 PM

〈お題:街の明かり〉ー評価:駄作も駄作

雨が、降っている。
街灯が点滅している。

「そんなところで寝てるなよ。おい!」
私にとって、それは夢のような時間だった。
「こんな道端で寝てるなよ、おい」
全てが崩壊する。
見知った街並みが、赤褐色に染まる。
「聞いてるのか!おい!」
キィーンとした耳鳴りが徐々に高まっていく。

これはもう、助からない。
その直感だけが私の感ずる全てだった。

「返事をしろ!」
街が、知らない男の顔に成り代わって、その口が訳の分からないことを語っている。

「救急車はもう呼んだから、後は…後は!」

助からない。この男は、何をそんなに叫んでいるのか。私はこのまま、深い眠りへ、静寂を求める。

「頭を強打しているから、このまま動かさないで」

こんな風に時間を無駄にする男が憎らしい。
彼が複数人、いや、よく見たら何か違う。

「…現時刻から心肺停止を確認)

雨音が遠くて聞こえない。
耳鳴りが激しく鳴っている。

キィキィと頭蓋骨が軋む音だ。死の音だ。
死が目の前に迫ったのが分かる。
酷く寒くて、二度と戻れないと云う。

街灯の点滅が、街の明かりが脳裏に浮かぶ。
とても滲んだ赤褐色に私は縋った。

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