「私という名の本」
あなたのこころの本棚に
私という名の本はのこっていますか
もしもまだあるのなら
いつしか手に取って読んでほしい
私という名の本
それはきっと
すこし厚みのある本だと思います
休みながらでいいから
いつしか手に取って読んでほしい
私という名の本
それはかならず
冒頭に記されている
私があの時あなたに渡した
小さな封筒のラブレター
それもあなたの
あなたのどこかに
もしもまだあるのなら
栞がわりにしてくださいますことを
「愛のちから」
僕とお前が一緒になったとき
右側と左側で
愛のちからが生まれた
だけどやっぱり
それは素晴らしいとか
偉大なものなんかじゃない
愛のちからでは悪には敵わない
愛のちからでは病も治せない
愛のちからでは時間を止められない
愛のちからは素直になることに
たくさんの勇気が常に必要になる
愛のちからのいいところは
「もう二度と」という言葉を
否定し続けられることだけだ
きっとそれだけだ
「ローライト」
アサガオは今だ燃えろ
蒲公英は手鞠の綿毛
太陽のひかりは、どうして
私も私以外のものも
まるで嘘を吐いたかように
あんなにもひかり輝かせてしまうのか
すべてはもとの色をとりもどして
水は苔の弾む岩の間をせせらとながれ
堰を越えて海を目指せ
吹く風はいつも人の一生分の1を攫う
袋小路を縫いとどめている
暗闇はどこか安心していて釦を外す
白い洗濯物の裡(うち)より滴る雫
斜めに立て掛けられた赤い傘の沈黙
太陽が翳っている1秒の長い一日
快晴は煌めきすぎていて
嘘で満面の笑みをさせられる
雨では、人はいつしか、黒い傘で
顔も心も隠すようになった
そんな私たちが
元の姿に戻って泣ける日がある
それは1秒の長い一日の
草花も嘘を吐けなくなる
太陽も翳った曇りの日、その日だけだ
「雨の窓辺」
私がもっている
純度と香りの
いちばん高い
ばいばい。を
君に使おうと
思ったけれど
雨がずっと
明けないままだから
使わないことにしたよ
勝手でごめんなさい
だけどこれは
雨に濡れてしまったら
綺麗ではなくなるから
たしか君は
もう もっていなかったよね
窓の外はくらげと
黒いくらげ
それとあたたかい雨音
「胸にあるのは読み終わらない本」
人はもらった言葉で本をつくる
人は胸に何冊も本をかかえている
友だちのひとりひとりの言葉が
一冊一冊と違う装丁となっている
父、母の言葉も本になっている
恋人の言葉も、本になっている
悪い者の言葉も、本になっている
さようなら、ばいばい、そして
人はこの言葉で栞をつくっている
最後の言葉で人は栞をつくっている
人はその栞を本に
使いながら読めるようになった時
そこで一冊の本をやっと
読みおわることができるのだ
人はもらった言葉で本をつくる
人は胸に何冊も本をかかえている
生きていくということは
そのかかえている本を
栞を使って読めるように
なっていくということ
「君と見た風景は」
君と見た風景は
それは瞬く星の儚さに
悲しくなってしまった
風景だったよ
でもね、強くなったんだよ
君のいない夜だって
泣いてだって
生きているんだから
「いいよ。」
君が見たいと望むなら
この星屑の夜空に
粉雪だって降らせてあげる
神様が
そんなことで
私の心を壊さなきゃ
いけないくらい
だからあなたはさ
アンタレスを
私と思って
目を背けないでいて
できれば
目を背けないでいて