「雨の窓辺」
私がもっている
純度と香りの
いちばん高い
ばいばい。を
君に使おうと
思ったけれど
雨がずっと
明けないままだから
使わないことにしたよ
勝手でごめんなさい
だけどこれは
雨に濡れてしまったら
綺麗ではなくなるから
たしか君は
もう もっていなかったよね
窓の外はくらげと
黒いくらげ
それとあたたかい雨音
「胸にあるのは読み終わらない本」
人はもらった言葉で本をつくる
人は胸に何冊も本をかかえている
友だちのひとりひとりの言葉が
一冊一冊と違う装丁となっている
父、母の言葉も本になっている
恋人の言葉も、本になっている
悪い者の言葉も、本になっている
さようなら、ばいばい、そして
人はこの言葉で栞をつくっている
最後の言葉で人は栞をつくっている
人はその栞を本に
使いながら読めるようになった時
そこで一冊の本をやっと
読みおわることができるのだ
人はもらった言葉で本をつくる
人は胸に何冊も本をかかえている
生きていくということは
そのかかえている本を
栞を使って読めるように
なっていくということ
3/22/2025, 10:32:50 AM