うぐいす。

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10/4/2024, 10:35:33 AM

 Shall we dance?
 
 って格好つけて誘おうと思ったけど、勇気が出ずに結局誘えなかった、そんな舞踏会の思い出。

 なんて、そんな洒落た思い出あるわけねぇだろ!!

10/4/2024, 9:07:07 AM

 それは遥か遠い国での記憶。
 多分、お互い忘れている記憶。
 それでも、その二人にとっては、宝物のように大切な記憶。
 
 小動物や精霊や、動く果物などが闊歩する森林の奥深く―――開けた広場のような場所が広がり、そこからは城下町が一望出来るのだった。
「姫様、ここにおられましたか」
 鉄の擦れる音と共に、重い甲冑を羽織った騎士は、そう口にし、自らの仕える主の足元へと膝をついた。
「間もなく戦へ行って参ります故、別れを申し上げに参り仕った次第であります」
 風にドレスが靡く。
「馬鹿を仰らないで」
 まだ二十歳にも満たない齢にも関わらず王国のトップに担ぎ上げられた彼女は、騎士が少し目を離しているうちに、大人びた表情をするようになっていた。しかし、どうやら、緊張をすると、胸元に掛けられているペンダントを握る癖は、治っていないようだ。
「貴方は必ず、生きて私の下へ戻って来るのよ」
「それは、宮廷魔術師殿の予言で?」
「馬鹿なの? そんなわけないでしょ。大体、あんな奴、さっさと騎士団に捕まって火刑にされちゃえばいいのよ」
「はは、おっかない姫様だ」
 こうして会話を交えていると、まるで昔に戻ったような心地になる。なってしまう。立場という二言さえ知らなかった幼い子供の頃に。戻れたら、どんなにいいか。
 けれども、それは叶わない願いで、口にしてはならない願いなのだ。子供のままでいられたら、なんてのは、本当は泣き虫なくせに気丈に振る舞う少女の耳には入れてはならない。
「ねえ、約束して。必ず帰って来るって」
「・・・ええ、俺は―――」




 カチ。
 耳を劈くようなけたたましい音を撒き散らす、不愉快な道具―――すなわち、目覚まし時計―――を止めて、寝具から起き上がる。
 なんだ、今の夢。
 ガキじゃあるまいし、あんなファンタジーな夢を見るとは思わなかった。昨日の晩、子供のままでいられたらよかったと馬鹿な考えをしたのは確かだが・・・、ん? ふと、柔らかな感触に思考を止める。隣を見れば、自分が今までかけていた布団がこんもりとしていた。
「・・・・・・・・・・・・」
 いやまさかな。それこそ、夢であってほしい出来事だったんだから。いや、あれは夢だ。夢でなかったらなんだと言う? 魔術師だの一国の姫だのトンチキなことを並べ立てていた少女に、助けを求められたなんて。
 
 ―――それは、宮廷魔術師殿の予言で?―――
 ―――おっかない姫様だ―――
 ―――約束して。必ず帰って来るって―――

 不意に、頭の中に先程見た夢の会話が浮かぶ。いや、だからなんだと言うのか。俺には関係ない話だし、第一ただの夢じゃないか。ちょっと前に異世界転生が流行ったからって、現実に置き換えて考え始めたら、ソイツはもうただのキチガイだ。アレはただの妄想で、一介の夢で、現実とは遥か遠い場所に―――国に、あるものなのだから。
「んん・・・」
「!!」
 まずい、身動ぎをし始めた。この後の行動はなんとなく想像がつく。お約束と言うやつだ。取り敢えず部屋から脱出して、会社に向かおう。今日は土曜だが、何故か理不尽に上司の仕事を押し付けられたので出勤することになっている。ありがとう休日出勤今このときだけは。
 と、俺がドアノブに手をかけた瞬間、背後で起き上がる気配がした。普通気配分かる? 円使ってんの? つーかこれが限界? って思うかもしれないけど、火事場の馬鹿力的なアレだよ。敏感になってんだよ。
 そうして、起き上がった少女が寝ぼけ眼を擦りながら言った。
「・・・あら、おはよう。私の騎士様」
「え?」
「・・・・・・え?」
 いやなにお前も驚いてんの??

10/2/2024, 4:02:22 AM

 逢魔時―おうまがどき。夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わり時刻。黄昏どき。魔物に遭遇する、あるいは大きな災禍を蒙ると信じられたことから、このように表記される。

「百鬼夜行?」
 男は、同僚の言葉を復唱する。百鬼夜行・・・、水木しげるの作品でしか出てこない単語だと思っていたが、まさか現実世界に起こる出来事として聞くことになるとは思わなんだ。しかしながら、同僚の考察を馬鹿馬鹿しいと一笑することは、今の男には出来なかった。今から約一週間程前のことだ。ちょうど御彼岸が終わる日頃に、不可解な連続殺人事件の始まりの一件が起こった。ガイシャのご遺体は、頭部が異常な程に膨れ上がっており、手足がなく、まるで達磨のようだったという。連続殺人だと発覚したのは次の事件が起きてからだ。ガイシャのご遺体は、腹が妊婦のように膨れ上がっていた。解剖は行ったが子供はおらず、そもそもガイシャは男性だった。関連性は明白だろう。人間が成し得るには到底不可能な殺害方法であるということだ。早急に対策本部を立ち上げたはいいものの、その間に二人殺されている。これは稀にも見ない異常事態だ、日本中を震撼させる恐れがあると考えたお上は、とにかく暇な警察を片っ端から集め、事件の収束を図った。それから一週間とちょっと。事件はまだ鳴りを潜めない。以前として、犠牲者は増え続けている。
 この世のものではない集団、または集団の行進―――百鬼夜行。警察が血反吐を吐くように、或いは目を血眼にして追い掛けている犯人(若しくは犯人たち)が、もしその集団に紛れているとしたら。
「おい、その百鬼夜行ってぇのは、いったいいつ見れるんでぇ」
 犯人(若しくは犯人たち)を捕まえる絶好のチャンスだ。そして、男が昇進するチャンスでもある。いつからだったか、有名な大学を卒業したキャリア組であった男は、現場にいるありふれた警察へと陥落していた。しかし、だ。巷を、否、日本を騒がせている例の犯人をとっ捕まえることが出来れば、これ以上ない昇進への足掛かりとなる。ひょっとして・・・、日本中のヒーローとして祀り上げられたりとかもしちゃったり!
「おい! 百鬼夜行ってぇのは、いったいいつ見られるんでぇ!」
 男は、喰らいつくかの如く同僚へと詰め寄る。興奮が抑えきれないらしい。つくづく人間とは救えない―――が、そんな愚かしい生き物が、我らにとっては一等美味なのだから死にきれない。元々生きてさえいないのだが。
「―――・・・?」
 男は、よくやく目の前に立つ同僚が、自分の知っている人物と合致しないことを悟ったらしい。手が震え、足が震え、口が震え、全身が震撼している。日本が震撼する前に、お前が震撼してどうするのかと思いながら、???はユラリと陽炎の如く近寄った。男は、震える声で問うた。
「誰だ、お前は」
「―――・・・」
 カチリと、ピースが嵌まった。

 

 ―――・・・のニュースです。昨日未明、河川敷に変死した遺体が打ち捨てられているのを、ジョギング中の女性が発見しました。遺体は臀部が不自然に膨張しており、警察は、先日起きた事件らとの関連性から、連続殺人事件と考えて間違いないそうだと・・・―――

9/2/2024, 6:33:52 AM

 眠れない夜は、朝が来るまでが悠久のように思えて、つい枕元にある携帯電話に手が伸びる。充電器を挿しているからか、ほんのり温かみを帯びたそれに人差し指を添えて、通話アプリを開く。誰か、こんな夜更けに起きていて、友人の拙い小噺に付き合ってくれる者はいないかな。人差し指を下から上にスライドさせて、そして一つ名前を見つける。ああ、コイツ。コイツならきっと、自分と同じで、眠れなくて『夜中』に飽いているに違いない。タップを一つして、画面を変える。今夜はどんな話をしようかな。

 ―――明けないLINE―――

8/5/2024, 5:11:07 PM

「―――鐘の音だ!」
「―――ねえ、行ってみようよ!」
「―――絶対絶対、叶いますように」
「―――俺と、」

 ブチッ。
 瞬間、堪えきれずに電源を落とした。
 顔から変な汗がだらだら伝ってゆく。不快で仕方なくて、部屋の窓を開けて風を一心不乱に浴びた。
 最近話題になっている女性向け恋愛ゲーム、所謂乙女ゲームというやつに、二十歳を過ぎてから初めて手を出した。以前から友人にオススメされてはいたが、いい大人がプレイするようなジャンルのゲームではないと思い、今まで遠ざけていた―――しかしあの日は、高校の頃から付き合っていた彼氏と別れて、精神的にボロボロになっていた。だからか、手を出すまいと誓っていたゲームのパッケージに、手を伸ばしてしまったのだ。
 結果。ボロボロだった精神はより悲惨なものとなった。ハッキリ言って、令和の乙女ゲームというものを舐めていたのだ。まさかあんなにも、キラキラ青春出来るだなんて思わなかった。
 自分には存在し得ない高校時代ならまだ良かったのだ。しかしなにせ彼氏がいたわけだし、やろうと思えば、あんなアオハルのような経験が出来たかもしれない。それがまた、私の傷を深く抉ってきた。ていうか話は変わるけど、女友達可愛すぎないか? えーあの子たち攻略したいんだけど・・・。
 
「・・・・・・はあ」

 初めてやったせいで、セーブの仕方もままならなかったから・・・やるなら、最初っからになるのか。最初から・・・あの青春を・・・。
 ううっ。私もあんな青春をおくってみたかった。同級生と勉強に運動、部活に勤しみ、後輩と交流をしながら、他校の男の子と爆速で仲良くなる・・・そんな青春を・・・最後の方はともかくとして・・・。
 ばたりと脱力し、カーペットに寝そべる。そしてゆっくりとそのまま目を閉じた。なんだか、ブーブーとうるさいスマホは無視して。どうせあれだ。私に電話をかけてくるなんて、会社の上司くらいなんだから―――。

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