「―――鐘の音だ!」
「―――ねえ、行ってみようよ!」
「―――絶対絶対、叶いますように」
「―――俺と、」
ブチッ。
瞬間、堪えきれずに電源を落とした。
顔から変な汗がだらだら伝ってゆく。不快で仕方なくて、部屋の窓を開けて風を一心不乱に浴びた。
最近話題になっている女性向け恋愛ゲーム、所謂乙女ゲームというやつに、二十歳を過ぎてから初めて手を出した。以前から友人にオススメされてはいたが、いい大人がプレイするようなジャンルのゲームではないと思い、今まで遠ざけていた―――しかしあの日は、高校の頃から付き合っていた彼氏と別れて、精神的にボロボロになっていた。だからか、手を出すまいと誓っていたゲームのパッケージに、手を伸ばしてしまったのだ。
結果。ボロボロだった精神はより悲惨なものとなった。ハッキリ言って、令和の乙女ゲームというものを舐めていたのだ。まさかあんなにも、キラキラ青春出来るだなんて思わなかった。
自分には存在し得ない高校時代ならまだ良かったのだ。しかしなにせ彼氏がいたわけだし、やろうと思えば、あんなアオハルのような経験が出来たかもしれない。それがまた、私の傷を深く抉ってきた。ていうか話は変わるけど、女友達可愛すぎないか? えーあの子たち攻略したいんだけど・・・。
「・・・・・・はあ」
初めてやったせいで、セーブの仕方もままならなかったから・・・やるなら、最初っからになるのか。最初から・・・あの青春を・・・。
ううっ。私もあんな青春をおくってみたかった。同級生と勉強に運動、部活に勤しみ、後輩と交流をしながら、他校の男の子と爆速で仲良くなる・・・そんな青春を・・・最後の方はともかくとして・・・。
ばたりと脱力し、カーペットに寝そべる。そしてゆっくりとそのまま目を閉じた。なんだか、ブーブーとうるさいスマホは無視して。どうせあれだ。私に電話をかけてくるなんて、会社の上司くらいなんだから―――。
8/5/2024, 5:11:07 PM