ふ、ふふふ。
やったぞ! ついに手に入れた!
透明人間になる薬を!!
これを飲めばやりたい放題だ!
ゴクゴクゴクゴク。
・・・これ、ちゃんと消えてるのか? うーん。自分じゃ確認のしようがないな。
よし。
おい、姉ちゃん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・こりゃ成功してるってことでいいのか?
おーい、バーカ。バーカ。
・・・姉ちゃんのプリン食べたの、父ちゃんの仕業って言ったけど、本当は俺だぜ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・マジか。
よっしゃー!! これで・・・ぐふふ。
これで―――、
―――母ちゃんの敵がとれる。
さあ、やろうぜ。復讐。
きみはぼくのおにんぎょう。
かわいくきかざって、かわいいかわいいね。
? おかしいな。おにんぎょうなのにしゃべってる。
おかしい。おかしいな。
これじゃあぼくのおにんぎょうじゃない。
ぼくのりそうのきみじゃない。
しかたがないから、おくちはぬってしまおう。
あれ、そのて、どうしたの? ぼろぼろでいたそう。
しかたないから、ぼくがぬってあげる。
これできみは、またかわいいおにんぎょうさん。
あれ、うごかなくなっちゃった。ざんねん。
今日は我が国のお姫様の戴冠式だった。
オーケストラが場を賑やかせ、国民や付き人たちもワイワイと騒ぐ。
そんな平和なある日の一ページ―――だったのだ。
ちゃんと。
そう。その時までは。
突如として空が暗くなり、王国に影が差した。
異空から這い出てきた、亀の甲羅のようなものを背負う化け物は、お姫様の身体を掴むと、「姫を攫って行く」と、堂々たる姿勢で言い、また異空間へと消え去ってしまった。
突然のことだった。
唐突過ぎて、なにも反応出来なかった。
暫くみんなで呆けていて、数分経った頃にやっと事態の深刻さを認識出来たのか、国民も付き人も、ワーワー騒ぎ出した。
先刻までの、平和で穏やかな騒ぎとは真逆だった。
―――ああ、こんなにも。
と、男は膝を折る。
こんなにも呆気ない別れだなんて。
ワーキャーワーキャーと叫び怯え戸惑い右往左往する国民たちの声が、何処か遠くに聞こえた。
―――これは、赤い帽子がトレードマークの男が、綺麗な桃色のドレスを着たお姫様を助け出す為の、きっかけのお話。
僕にとって『恋』とは、所詮は上辺だけのもので、自分の欲を満たすための体の良い文句だった。
幼少期、散々言われてきた「貴方のため」という言葉。
学生時代、貴方のことが好きだから、と身勝手に感情を押し付けてくるクラスメイト。
それが愛情か恋情か、はたまた別のなにかなんて僕にはどうだっていいが、とにかく鬱陶しくて仕方なかった。
だから、恋なんて―――ひいては、それを飾り付けて彩る『恋物語』なんて胡散臭いものが、僕は嫌いで嫌いで、目にも入れたくないものだった。
―――そんな僕が、恋をした。
行きつけの喫茶店の、新人の店員の女の子だった。
仲良くなりたくて、意味もなく彼女のオススメを聞いたり、もしよれば、なんて言う勇気もなくて、だけど彼女のことがもっと知りたくて、彼女の後をつけたりした。
ある日、いつも通り、帰宅途中の彼女をつけていると、そんな僕に気付いた彼女から「もうこんなことは止めて下さい」と非難の声を浴びた。
―――なんで。なんで、なんで。
なんで。
こんなにも―――ただ、君が好きなだけなのに。