雫
私はこの村から出たことがない。というのも出ることを許されていないからだ。この村の神の巫女として、結界を守ることでこの国が守られるだとかどうとか。
もっとも、私はそのことを信じていない。何せ何一つ特別なことはしていない。祈りの時間があるわけでもなく、滝行をするでもなく。ただ村の人々と同じように起きて食事をして働いて、寝る。毎日毎日、毎日そのことの繰り返しだ。
私はこの村をでたい。大人に言っても反対するだけだから誰にも伝えたことはない。
村を飛び出す理由は色々とあるけれども、一番の理由は神社で掃き掃除をしていた時のことだ。水撒きをした後の葉についていた雫を眺めていたあの人に逢いたいからだ。
何もいらない
貴方以外何もいらないそう思った以前のことの方が、他の人から見て幸せなのかもしれない。実際、貴方と私には骨に肉を纏ったといった意味では差はないはずだった。
どうして身分という差があるのか。私は貴族で貴方は平民という括りがあって。
このまま貴方と逃げ出したとしてもそのことを貴方が望むとは限らないし何より、貴方が不幸になることを私は望まない。
だからこそ何も誰にも言わずにこの胸の中にしまっておくとしよう。この気持ちは恋は私だけのものだから。
もしも未来が見えるなら
〜とある貴族の姫君の日記〜一部抜粋
私のタイムリミットは1ヶ月を切った。なんていえば病気だと思う人が大半だろう。それだったらある意味幸せだったかもしれない。
実際私自身が神に捧げられるとしればそっちの方が良いだろうという意見の方がこの国ではきっと大半だ。死にたくない、という気持ちはあるにはあった。
だが、それ以上に私の命で国の人々が救われるのならばそのことに意味はあるのだろうと思っていた。
死神、ジャックと私が名をつけた彼女と出会ってからそうは思えなくなってきた。ますます生きたいと思ってしまった。あの子と出会えてよかったけれども、こんなに苦しいと思わなかった。生きたい、生きて一緒の景色をみたかった。一緒に歳をとりたかった。せめて普通の産まれだったら叶ったのだろうか、そんなこと考えても悲しくなるだけだから。
だから神様お願いです。どうかあの子を幸せにしてください。私がいなくても幸福であれるように。
そして、もしも未来が見えるならその景色を私にも見せてください。
貴方の贄からのお願いです。どうか.......。
無色の世界
この世界は私にとって無色の世界だった。君と出会うまでは。
泉で体を清めていた時に魔物に襲われそうになって、そこに君が来てくれたその時から私の世界が色鮮やかな日々になっていった。
そこから一緒に旅をしていくうちに、語り手や罪人と出会ったり、さまざまな依頼を受けたり、追ってにおわれたりと色々なことがあったね。
どうかこれからも一緒に色々なところを貴方と一緒に行きたい。だから今までありがとう、これからもよろしくお願いします。
届かぬ想い
私はとある貴族の姫君に仕えている侍女だ。名を仮に
アリとここでは名乗ろう。彼女とは遠い親戚同士で本家と分家の関係だ。
正直、本家に産まれなくてよかったと最初は思っていた。何せカミに祈りを捧げるために18歳になる時にその身を命を捧げなければならない。ようは生贄というやつだ。
私が12歳、お嬢様が5歳の時に逃げ出さないように捧げられるという場所に連れてこられた。彼女は出れないため最初は泣きじゃくっていた。だが、もう出ることは叶わないとわかったのかだんだんと泣かなくなった。そうして徐々に優しく柔らかく笑っているが時折諦めがついたような表情もするようになった。
彼女が16歳の時に死神と会ったようでとても嬉しそうに笑っていた。どうやら同い年だったようで楽しそうだった。その頃にはすっかり私はお嬢様のことを妹のように大切な存在になっていた。
だからこそ悲しくも恨めしかった。あと2年もしないうちに彼女は死んでしまう。その身を代われるというのならばかわって差し上げたかった。最初お会いした時にどうして自分でなくてよかったと思ってしまったのか恨めしく思った。だが、そのことは己の立場では伝えることもできない。せめて逃げて幸せになってくれたらなどと、この届かぬ想いをどうすれば良いものか。
......そう考えながら日々が消えていった。