雨音

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11/13/2024, 7:44:29 AM

7時まで書き上がらなさそうなので、場所だけ
キープさせていただきます。

申し訳ありません…。

11/12/2024, 8:54:52 AM

季節は8月の中旬。最高気温が連日更新されて、テレビのニュースでは"暑さ対策"に関する様々な情報が提案されている今日この頃。
いつも高校に向かうときに乗る駅から高校とは反対方向の電車に揺られながら、僕は家から持ってきた小説を読みふけっていた。
しかし、その集中も今日は5分程しか続かず、僕は10ページ程しか読み進められなかった小説を閉じて、隣に座っている友人に話しかけた。
「…それで、そろそろ今日の行き先を教えてくれないか?」
「うん、お前ならそろそろ聞いてくると思ったわ。」
この友人。こいつは僕が中学生の時に家の近くに引っ越してきて、同じクラスで近所になったこともあり、なし崩し的に仲良くなった。
今は別々の高校に通っていて関わりは減ったものの、連絡は頻繁に取っているし、唐突に互いの家に訪問したりもしていた。
そして、今朝。朝の6時に"今日の10時に駅で合流"というメールが来て、慌てて準備して向かったら、なんの説明も無しに切符を買わされ電車に乗らされ…今に至ると言うわけだ。
「俺が言うのも何だけどさ…お前、変な人に騙されないように気をつけろよ?」
「僕はお前ほど無鉄砲じゃ無いし、信用していない相手の誘いには乗らないから大丈夫だ。」
僕の返事に、彼は何故かニヤニヤとする。なんだろう、訳もなくぶん殴りたい。でも、電車内だから我慢する。
「俺の姉ちゃんさ、今彼氏がいるんだけど。」
「知ってる。というか、僕はお前のお姉さんに彼氏が途切れたところを見たことがない。」
「それでさ、今日デートに行く予定だったんだけど、昨日別れようって電話が来たんだって。」
「それはご愁傷さまだな。」
「それで今とんでもなく荒れてて。デート用にチケットも買ったみたいなんだけど、見てるとイライラするから使うか捨てるか好きにしろって渡されて、家から追い出された。」
「それはお前もご愁傷さまだな。」
友人のお姉さんは僕も知っている。結構な美人で、男女問わず友人が多いらしい。ただ、偶に彼氏と別れたときにとんでもなく機嫌が悪くなったりするらしく、その度に友人が何かしらとばっちりを受けたりするのも知っていた。
「ん…それで、これがそのチケット。」
「水族館のペアチケット…しかも今日の日付指定…あぁ、なるほど。」
「流石に捨てるのはもったいないかなと思ってさ。」
「他の奴にも声かけたのか?」
「嫌、かけてない。でもお前なら、説明しなくても付き合ってくれそうな気がして。」
全く、僕をなんだと思っているのか。でも、文句を言うほど、悪い気はしなかった。
「それでお前は何か好きな海洋生物はいるのか?」
「特には…あ、でも、この水族館はアーチの水槽?みたいなのを推してるらしい。」
「あれか…うん、なんとなくわかる。」
「お前はなんか気になるのいるか?」
「うーん…ペンギン?」
「思ったより普通だな…でも、ペンギンって、可哀想だよな。」
「なんで。」
「ペンギンって、翼があるのに、飛べないじゃんか。一部では『飛べない鳥』って馬鹿にするやつもいるみたいだし。」
「でも、僕たちはペンギンじゃないから、本当の所は分からないだろ。」
「それはそうだけど…。」
「それに、僕たち人間は飛べないけど、飛行機って飛べる手段がある。でも、乗った人皆が幸せになるわけじゃない。だから、飛べることが幸せとは限らない。」
「……うん、俺、お前のそういう考え方好きだわ。」
電車が何度目かの駅から出発する。路線をちらりとかくにんすると、どうやら次が目的の駅みたいだ。
「…ちなみに、なんでペンギンなんだ?」
「ちょうど昨日、夢にペンギンが出てきた…というより、自分がペンギンになる夢を見たから。」
「それは…ある意味ナイスタイミングだな。」
そんな話をしていると、目的の駅のアナウンスが聞こえた。僕たちはどちらが合図するでもなく同時に立ち上がり、出口の扉に向かう。
電車の外はきっととんでもなく暑いだろう。でも、家の中にこもっているよりも有意義な時間が待っているだろうと、僕は心を密かに弾ませながら電車が停まるのを待つのだった。

11/11/2024, 6:54:04 AM

ここに来るのも久しぶりだ、と目的の場所に着いた私は思った。
そこは私が今住んでいる場所の近くにある小高い丘の上にあった。目の前にはあの頃の中で一番思い出深いススキの群生地が変わらず存在していた。
小さな頃、この場所は私の秘密基地だった。季節によって色の変わるこの場所が、私は大好きだった。

私の住んでいる村は、明るくて元気な人が多く、私はそんな村の村長の一人娘として生まれた。周りのみんなはとても優しくて、村の誰もが差違はあれど赤みがかった髪をしているのが特徴だった。
しかし、どんなに優しい村の人でも唯一怖くなることがあった。それが、隣の村に住んでいる人達に関することだった。
隣の村に住んでいる人達に幼い私は会ったことが無かった。でも、彼等は愛想がなく、とても冷たい人達なのだと物心つく頃から教えられていた。大人は皆口を揃えて、青い髪の奴らには絶対に負けるな、と言った。

ある日、幼い私は小高い丘の秘密基地に泣きながら来ていた。村の他の子供たちに「あおいやつらはうんどうがとくいなのに、おまえはちっともうんどうができない。おまえといるとあおいやつらにばかにされるから、あっちいけ!」と言われたのだ。
だから私は、沢山のススキの中に埋もれるように座り込んで、声を殺して泣いていた。すると、ススキをかき分けて一人の少年が現れた。
少年は青みがかった髪をしていた。そして、私と同じくらい目を真っ赤にして泣き腫らしていた。
私達はお互いに見つめ合い、しばらく動けなかった。実のところ、私は初めて見る髪の色に見とれていたのだ。しかし、誰かが泣いているときにハンカチを渡すお母さんを思い出して、慌ててポケットからハンカチを出して、それから目を丸くした。
なんと、目の前の少年も同時に持っていたカバンからハンカチを取り出して渡してきたのだ。私達はお互いのハンカチをまたしばらく見つめ合い、そして同時に吹き出した。

それから、彼と私は仲良くなった。
会うのはいつもこの丘の上。ここで私達は色々な話をした。
それぞれの村のこと。好きなことや苦手なこと。二人だけの内緒の話をしたりもした。
それだけじゃない。おいかけっこやかくれんぼ、ピクニックや木のぼりなんかをして遊んだりもした。
彼とすることは、何だって楽しい。きっとあれが、私の初恋だったのだろう。

「あれ、おかーさん?」
物思いにふけっていると、目の前のススキからひょっこりと顔を出す影があった。
「あら、こんなところに隠れていたの?」
「うん!なにかおもしろいものがかくれてないかなって、さがしてたの。」
「そう、何か見つかった?」
「ううん、ススキしかなかったー。」
「それは残念ね…でも、きっとあなたもいつか、良いものが見つけられるわよ。」
「おかーさんは?なにかみつけたの?」
「ふふっ。お母さんはね、ここでお父さんを見つけたのよ。」
「えっ、ほんとに?」
「ホントよ。家に帰ったら、その時のことも話してあげるわ。」
そうして私は、息子の頭や体についたススキの穂をはらい、その手を優しく握った。
秋の少し涼しくなってきた風に息子の薄紫色の髪がサラサラと揺れるのを見て、私は幸福を感じながら二人で帰り道を歩き始めるのだった。

11/10/2024, 5:19:38 AM

その時脳裏によぎったのは、両親が離婚してから一度も会っていない父親の事だった。

私の父親はその業界ではそれなりに有名な脚本家で、有名なドラマや映画の作品に何度も関わっている、自慢の父親だった。
私はそんな父親が大好きで、将来は父親のような何らかの物書きになりたいと思っていた。
しかし、私が小学校高学年の時、父親は業界の中で大きな失敗をして、脚本家であることが叶わなくなってしまった。それからほとんど間をおかずに、両親が離婚。私は母親の方に引き取られた。

バスにゆられながら、その後の事をぼんやり思い出す。
母親は父親と正反対で、平凡な人だった。
私に特に口うるさく言う事なく、でも学校の行事にはほとんど来てくれて、パートで忙しくしながら一人で私を育ててくれた。
私が高校を卒業して県外の大学に行きたいと言った時も反対しなかったし、家を出てからも定期的に仕送りをしてくれた。
私は母親が嫌いでは無かったが、父親以上に好きという事も無かった。多分、幼い頃に理由もちゃんと説明されずに父親と会えなくなったのを母親のせいだと思っていたのかもしれない。
大学を卒業してからは地元に帰らず、バイトをしながら創作活動をして、そのうちのひとつが賞を取り、私は運良く小説家になれた。
それから10年書き続けた。ドラマや映画となったものもあった。それに思うところはあったけれど、それでも書くのはやめなかった。
しかし、先日、健康診断の異常から病院に行き、癌であることが発覚した。幸い初期であったため命に関わる可能性は低いが、手術をしなければならない。真っ白になった頭の中に真っ先に浮かんだのは、父親が机に向かっている姿だった。

だから私は今、病院から出てそのまま父親の住んでいるところに向かう電車に飛び乗った。だから、というのがおかしいのは自分でもなんとなく分かるが、家に帰る気にはなれなかった。
そして電車からバスに乗り換えて、今、父親が住んでいるであろうアパートの部屋前に立っていた。
何を話そうかは考えていない。ノープラン。でも、何故か会わないといけない気がした。
そして、私は―――。


「………。」
私は何も言えず、ぼうっと駅のベンチに座っていた。幸い、私に話しかけてこようとする人はいなかった。
父親には会えた。シワが増えたり、髪の色が変わったりしていたが、面影はあの頃のままだった。
父親は離婚した時の事を教えてくれた。
最後に書いた作品が、世の中で大きく炎上した後。インターネットのどこかから、父親の個人情報が流出したらしい。そして、私は知らなかったが、家にも嫌がらせが来ていたらしい。
私に取り返しのつかない被害が起こったら。それを恐れた両親は、離婚することで少しでも私への被害が来ないようにすることを考えたらしい。
父親は私にも説明しようと言ったが、母親が「あの子の夢を大人の都合で暗いものにはしたくない。あの子の憧れは、私が守ります。」と言ったらしい。
それを聞いて、私は何も言えなかった。

父親に、癌のことはついに話せなかった。昔は何だって話せていたのに、不思議なものだ。
そして今、脳裏に浮かんでいるのは、大学を卒業してから一度も連絡を取っていない母親の事だった。それは父親よりも鮮明で、鮮やかなものばかりだった。
私は立ち上がり、切符を買って改札を出る。空はオレンジに黒が混ざり始めていた。
どうしたいかは、相変わらず浮かばない。それでも私は、母親の所に向かう電車に乗った。
今から向かえば、着くのはきっと深夜だ。絶対に驚かせるだろう。でも、何故か、母親にならば癌の事もちゃんと話せてしまう予感があった。
目的地まではまだ長い。走り出した電車の揺れを心地よく感じながら、私はそっと目を閉じた。

11/9/2024, 1:23:53 AM

今日は少し、俺の友人の話に付き合ってほしい。

俺は物心ついた頃から今まで、ある程度平凡な日常を送ってきた。家族仲は良い意味で距離感のある関係だし、学校での友人も多すぎず少なすぎず。勉強も自分なりの程々にしているし、部活もそれなりに真剣に取り組んで、バイトもいくつか経験した。
そんな自分が唯一少し平凡じゃ無いと言えること…それは、俺に変わった友人が居るということだ。
そいつと俺は、小学生からの仲だ。仲良くなった理由は…覚えてない。俺は気付いたらそいつに自分から絡みに行って、気付いたら自然と隣りにいても違和感の無い仲になっていた。
そいつは周囲の人間から『フシギ』やら『フシギくん』と呼ばれていた。誰が言い出したかは分からない。そいつの本名を少しアレンジしたシンプルなあだ名だったし、本人も特に気にしてはいなかった。何より、そのあだ名はそいつをよく表していた。
そのエピソードのいくつかを語らせてほしい。
まず、『フシギ』は小学生の時、急に校舎の3階から飛び降りようとしたことがある。慌てて止めた先生が訳を聞くと、「光をどうにかしてつかめないか考えていたから」と言ったらしい。
もうひとつ小学生の時のエピソードで有名なのは、運動会の借り物競走で当日に予定していた用紙を全部白紙にすり替えて、競技自体を中止にしてしまったものだ。そいつが言うには、「人のハプニングに対する対応の違いが見たかった」とのことだ。もちろん、後から先生や親にこっぴどく怒られたそうだ。
中学生の時、俺は『フシギ』とは一度も同じクラスにはならなかった。だから、その頃のそいつとは小学生の時ほど関わってなかったけど、そいつのクラスで1つの授業を全員がサボる事件があったらしい。詳細は今でも分からないが、『フシギ』がなんか仕掛けたんだろうなぁ…と、彼をよく知るものは思っただろう。これの理由に関しては、俺は今でも知らない。
高校生の時、『フシギ』とは違う高校だったのだが、2年生の時に同じ高校に転校してきた。何故か、元々の学校より偏差値の低いここに。どうやら、ここじゃないとやりたいことが出来なかったらしい。
その2年生の文化祭で、『フシギ』はある事件を起こした。全校生徒が集まる作品発表の場で急に壇上に上がり、アニメと科学の関係についての公開実験を行った。そして俺も照明や効果音なんかで一枚噛んだ。関わった奴らは『フシギ』や俺も含めて反省文を書かされたのだが、卒業した今でもそのエピソードは語り継がれているらしい。
そして縁があってか、俺と『フシギ』は大学も同じだった。学科もサークルも違ったりしたが、『フシギ』が何かを思いついて、俺に相談してきて、俺がそれを陰ながら手伝う。そしてそれのいくつかは大事件一歩手前になったりもした。
そうして俺はいつからか、『フシギ』とセットで話題に上がるようになった。でもそれは、俺にとっては嫌なことでは無かったりした。

大学を卒業して数年後。俺は平凡な営業の会社員として日々を過ごしていた。
そんな中、『フシギ』と久しぶりに会った。理由はお祝いだ。
『フシギ』は学生時代に企業からスカウトされて、どこぞの研究員として働いていた。そして先日、そいつのしていた研究がその分野の中だと有名な賞を受賞したそうだ。
「賞をとった感想は?」
「こんなの、僕にとっては意味のないものだよ。」
俺は半分驚いて、半分納得した。なんとなく、そいつならそう言う気がしていた。
「よこしまな考えの奴に、たくさんの不純物が混ざった祝の言葉を言われるより、君みたいな平凡な友人から言われる言葉の方が、僕にとってはよっぽど意味のあるものだよ。」
そう言われて、俺は自然と頬が緩んだ。そう、昔からこういう奴だった。だから俺は、こいつの友人を辞められなかったんだ。
嬉しくなったからか。俺は自然と、口から言葉を発していた。
「なぁ…俺、やってみたいことがあったんだ。」
「君がそんなこと言うなんて、初めてだね。」
「実はさ、高校の時にお前を手伝ってから、ずっと映画を作ってみたかったんだ。」
「そういえば、君、大学で映画研究会サークルに入ってたね。」
「まぁ、見る専門の奴しかいなかったから、言い出しにくくて…でも、密かに、今でも忘れられないんだ。」
「そうか。じゃあ、やってみようか。」
「はぁ⁉」
俺は驚いた。そんなあっさりと、こいつは俺が諦めていたものを拾ってきた。
「そんな驚くことかい?」
「いや……だって、そんなあっさり言われたって、すぐ叶えられるものでも無いし…。」
「でも、君は僕がやりたいことを言っても、一度も馬鹿にしなかったし、それこそ大学時代はどんなことだって手伝ってくれてたじゃないか。」
「『フシギ』…。」
「今度は、僕の番だよ。」
俺はすぐに言葉が出なかった。でも、ただ、『フシギ』の友人で良かった、と思った。
「それに…正直、今までのどんな研究よりも楽しそうだ。」
「フッ…なんだよ、それ。」
これからどうなるかは分からない。本当に叶うかも分からない。でも、それは昔からずっとそうだったし、こいつと一緒にやることならどんなに失敗したって後悔しない。そんな確信があった。

俺と『フシギ』が夢を叶えたかどうか。それがわかるのは、きっとそう遠くない未来の話だ。

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