雨音

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今日は少し、俺の友人の話に付き合ってほしい。

俺は物心ついた頃から今まで、ある程度平凡な日常を送ってきた。家族仲は良い意味で距離感のある関係だし、学校での友人も多すぎず少なすぎず。勉強も自分なりの程々にしているし、部活もそれなりに真剣に取り組んで、バイトもいくつか経験した。
そんな自分が唯一少し平凡じゃ無いと言えること…それは、俺に変わった友人が居るということだ。
そいつと俺は、小学生からの仲だ。仲良くなった理由は…覚えてない。俺は気付いたらそいつに自分から絡みに行って、気付いたら自然と隣りにいても違和感の無い仲になっていた。
そいつは周囲の人間から『フシギ』やら『フシギくん』と呼ばれていた。誰が言い出したかは分からない。そいつの本名を少しアレンジしたシンプルなあだ名だったし、本人も特に気にしてはいなかった。何より、そのあだ名はそいつをよく表していた。
そのエピソードのいくつかを語らせてほしい。
まず、『フシギ』は小学生の時、急に校舎の3階から飛び降りようとしたことがある。慌てて止めた先生が訳を聞くと、「光をどうにかしてつかめないか考えていたから」と言ったらしい。
もうひとつ小学生の時のエピソードで有名なのは、運動会の借り物競走で当日に予定していた用紙を全部白紙にすり替えて、競技自体を中止にしてしまったものだ。そいつが言うには、「人のハプニングに対する対応の違いが見たかった」とのことだ。もちろん、後から先生や親にこっぴどく怒られたそうだ。
中学生の時、俺は『フシギ』とは一度も同じクラスにはならなかった。だから、その頃のそいつとは小学生の時ほど関わってなかったけど、そいつのクラスで1つの授業を全員がサボる事件があったらしい。詳細は今でも分からないが、『フシギ』がなんか仕掛けたんだろうなぁ…と、彼をよく知るものは思っただろう。これの理由に関しては、俺は今でも知らない。
高校生の時、『フシギ』とは違う高校だったのだが、2年生の時に同じ高校に転校してきた。何故か、元々の学校より偏差値の低いここに。どうやら、ここじゃないとやりたいことが出来なかったらしい。
その2年生の文化祭で、『フシギ』はある事件を起こした。全校生徒が集まる作品発表の場で急に壇上に上がり、アニメと科学の関係についての公開実験を行った。そして俺も照明や効果音なんかで一枚噛んだ。関わった奴らは『フシギ』や俺も含めて反省文を書かされたのだが、卒業した今でもそのエピソードは語り継がれているらしい。
そして縁があってか、俺と『フシギ』は大学も同じだった。学科もサークルも違ったりしたが、『フシギ』が何かを思いついて、俺に相談してきて、俺がそれを陰ながら手伝う。そしてそれのいくつかは大事件一歩手前になったりもした。
そうして俺はいつからか、『フシギ』とセットで話題に上がるようになった。でもそれは、俺にとっては嫌なことでは無かったりした。

大学を卒業して数年後。俺は平凡な営業の会社員として日々を過ごしていた。
そんな中、『フシギ』と久しぶりに会った。理由はお祝いだ。
『フシギ』は学生時代に企業からスカウトされて、どこぞの研究員として働いていた。そして先日、そいつのしていた研究がその分野の中だと有名な賞を受賞したそうだ。
「賞をとった感想は?」
「こんなの、僕にとっては意味のないものだよ。」
俺は半分驚いて、半分納得した。なんとなく、そいつならそう言う気がしていた。
「よこしまな考えの奴に、たくさんの不純物が混ざった祝の言葉を言われるより、君みたいな平凡な友人から言われる言葉の方が、僕にとってはよっぽど意味のあるものだよ。」
そう言われて、俺は自然と頬が緩んだ。そう、昔からこういう奴だった。だから俺は、こいつの友人を辞められなかったんだ。
嬉しくなったからか。俺は自然と、口から言葉を発していた。
「なぁ…俺、やってみたいことがあったんだ。」
「君がそんなこと言うなんて、初めてだね。」
「実はさ、高校の時にお前を手伝ってから、ずっと映画を作ってみたかったんだ。」
「そういえば、君、大学で映画研究会サークルに入ってたね。」
「まぁ、見る専門の奴しかいなかったから、言い出しにくくて…でも、密かに、今でも忘れられないんだ。」
「そうか。じゃあ、やってみようか。」
「はぁ⁉」
俺は驚いた。そんなあっさりと、こいつは俺が諦めていたものを拾ってきた。
「そんな驚くことかい?」
「いや……だって、そんなあっさり言われたって、すぐ叶えられるものでも無いし…。」
「でも、君は僕がやりたいことを言っても、一度も馬鹿にしなかったし、それこそ大学時代はどんなことだって手伝ってくれてたじゃないか。」
「『フシギ』…。」
「今度は、僕の番だよ。」
俺はすぐに言葉が出なかった。でも、ただ、『フシギ』の友人で良かった、と思った。
「それに…正直、今までのどんな研究よりも楽しそうだ。」
「フッ…なんだよ、それ。」
これからどうなるかは分からない。本当に叶うかも分からない。でも、それは昔からずっとそうだったし、こいつと一緒にやることならどんなに失敗したって後悔しない。そんな確信があった。

俺と『フシギ』が夢を叶えたかどうか。それがわかるのは、きっとそう遠くない未来の話だ。

11/9/2024, 1:23:53 AM