キープさせていただきます。
今週は忙しいので、もしかしたらずっと書けないかもしれません。申し訳ないです。
本当に大切な宝物は、大切な人以外には教えたくないです。……私だけかもしれませんが。
あと、昨日は投稿も出来なかったのですが、いつかアロマキャンドル使ってみたいです。
キープさせていただきます。
今週は忙しいので、もしかしたらずっと書けないかもしれません。申し訳ないです。
思い出って言われたら色々出てきますけど、その中で一番のものって言われたら、少し悩みますよね。
キープさせていただきます。
今週は忙しいので、もしかしたらずっと書けないかもしれません。申し訳ないです。
冬になったら、キムチ鍋を食べてみたいです。
「中学1年の頃、凄く好きだった人とはなればなれになったんだ。」
そんな声が後ろから聞こえてくるものだから、僕はペンを動かしていた手を思わず止めてしまった。
ここは、大学の研究室で、今この部屋には僕と先輩しかいない。
この部屋の主である教授は、今日はいない。大学以外にも仕事場があるので週に2回しかここに居ないが、勉強や集まりに使ってもいいよと生徒の何人かに鍵を渡しているものだから、この部屋は大抵誰かが居座っている。
僕はその鍵をもらったひとりなのだが、レポートに集中するために研究室を訪れたら、先輩が居たというわけだ。
先輩は、大学3年生。僕の2つ上だ。
実は高校も同じだったので、大学で出会った…という訳では無い。
でも、高校の頃から不思議な雰囲気を持つ人で、図書館で読書しているのを僕は時々見かけていた。
運良く時々話す関係には慣れたものの、先輩はすぐに卒業してしまい、僕はそんな先輩の後を追い掛けるように同じ大学に入学した。
話を戻そう。
急に小さな爆弾を投げてきた先輩をちらりと見ると、先輩はこちらを見ることなく背中を向けてパソコンに向かい続けていた。だから、先輩の表情は分からない。
分かるのは、先輩の長い綺麗な黒髪が光に当たって綺麗…ということだけだ。
僕は努めて冷静に、自分のレポートを書く作業に戻ろうとした。
「別れるときはね、凄く泣いたよ。」
「相手も泣いたんですか?」
「いや、泣いてる私を必死に慰めてくれたよ。」
「そうですか…凄く優しい人だったんですね。」
「あぁ。怒ってる所は、ほとんど見たことなかった。私に見せないようにしてただけかもしれないけど。」
カリカリ……カタカタ……。
そんな会話をしながらも、ペンとタイピングの音は変わらず部屋になり続けている。
「その人がね、今度結婚するんだ。」
ガリィッ。
言葉の衝撃に、思わずペンの軌道がおかしくなった。
「それは…寂しいですね。」
「あぁ…少しね。先日、家に結婚式の招待状が届いたからね。」
「……行くんですか?」
「行かないと駄目だろう?」
「無理しない方が良いですよ?」
「喜ばしい事だ。無理なんてしてるわけないだろう?」
「でも、好きだったんですよね?」
「違う。今でも好きなんだよ。」
いつの間にか、部屋の中にはタイピング音しか聞こえなくなっていた。
僕はこれ以上なんて言葉をかけたらいいか分からず、重い空気に耐えるようにペンを強く握った。
「とにかく、大好きな兄さんが幸せになってくれたら、私も嬉しいよ。」
僕は今度こそ動揺を隠しきれず、ペンを地面に落とした。
カツーン、と甲高い音が部屋にやけに響いた、気がした。
「私の両親は、私が中学1年の時に離婚してね。」
後ろで、椅子が回転する音がする。
「兄さんは父に、私は母についていったんだ。勿論、それからも定期的に会ったりはしていたけどね。」
僕も椅子を回転させて振り向くと、先輩は僕のペンを拾って、してやったり、という顔をしていた。
先輩は出会った時からそうだった。真面目そうな顔をして、人にイタズラするのが上手いんだ。
「ドキドキしたかい?」
「……知りません。」
ニヤニヤしながらペンを渡してくる先輩は得意気で、僕は当分先輩に叶うことは無いのだろうと思いながら、ペンを受け取るのだった。
俺がじいちゃんと初めて会ったときに思ったのは、『気難しそうなじいさん』だった。
中学2年の夏休みの始め、父さんが倒れた。
母さんと父さんは駆け落ちで、その上母さんは俺を産んですぐ亡くなってしまったので、俺は自分の身内は父さんしか知らなかった。
その日、部活中に顧問の先生が慌てて部室に飛び込んできて、俺は冷静になる暇も無いまま先生の車に乗せられ、病院に向かった。
父さんは、過労で倒れたらしい。思えば、父さんがまともに休んでいるところを俺は滅多に見たことが無かった。
ベッドに寝ていた父さんは、顔色が悪いものの、思ったより元気だった。俺に「健(たける)、ごめんな。」なんて言って。今は謝るよりも、休んで欲しかった。
次の日、病院に父さんの身の回りのものを届けに行くと、知らないおじいさんが来ていた。
ふたりの空気はぎこちなさそうで、俺が声をかけるのを迷っていると、先に父さんが気付いてくれた。
「ここにいるのは、俺の父さん…つまりお前のおじいちゃんだ」と父さんが言った。どうやら、父さんが倒れたことで、連絡が言ったらしい。
そこから話はトントン拍子に進み、俺は夏休みの間じいちゃんの家に行くことになった。
父さんは、1週間程入院する事になった。
俺と父さんが住んでいる街と、じいちゃんの家がある町は、車で1時間ほどと、思ったより近かった。
じいちゃんの住んでいる所は程よく田舎で、買い物するスーパーなんかは歩いて20分程度の所に固まっていた。
じいちゃんの仕事は、農業。大きな畑を持っていて、俺が行ったときはトマトとピーマンを育てていた。勿論、俺もじいちゃんに教えてもらいながら、収穫を手伝ったりした。
ばあちゃんは、父さんが小学生の頃に亡くなったそうだ。そして、俺は一緒に過ごすうちに、じいちゃんがばあちゃんを大好きだったことを感じ取った。
じいちゃんと暮らし始めて何日目だったか。じいちゃんに「なんで農業をすることにしたの?」と聞いたら、「ばあさんが、やってみたいと言ったからだ。」と答えた。
でも、じいちゃんは一人暮らしではなかった。じいちゃんの家には、茶と白の子猫がいた。
3ヶ月ほど前、近所の人の家で子猫が沢山生まれ、引き取り手がいなかったうちの一匹を引き取ったらしい。正直、この子猫がいたから、じいちゃんと仲良くなれた気もしている。
「じいちゃん、この子猫、なんて名前?」
「…さくら、だ。」
「へぇ…何か由来があるの?」
「ばあさんが、桜餅が好物だったんだ。」
「そっかぁ…いい名前だね。」
「そうか…。」
1週間と少し経って、退院した父さんがじいちゃんの家に来た。
入院した初日より、明らかに顔色は良くなっていた。
父さんとじいちゃんは縁側で、暫く2人で話し込んでいた。俺はそれを、さくらを膝に乗せながら、遠くから見ていた。
何を話していたかは知らない。でも、時折父さんが泣いているように見えたのは、気の所為ではなかっただろう。
父さんが退院してからも、俺はじいちゃんの家にいた。昼間はじいちゃんの仕事を手伝ったり、宿題したり、ゲームしたり。夜はさくらを膝に乗せて夕涼みしたり、じいちゃんと話したり。
人生で始めて体験する事も多くて、俺はつまらないと思う暇もないほど充実したひと月を過ごした。
夏休みが終わりに近付き、自分の家に帰る日。
いつもは気まぐれなさくらが、今日に限って朝から俺の足にすり寄って、なかなか離れなかった。
じいちゃんは、さくらは自分よりも健に懐いてしまったなぁ、なんてこぼしていた。
「また近い内に、父さんと会いに来るよ。」
そう言って背中を優しく撫でると、俺の言葉を理解したように、さくらは家の中に戻っていった。
その次の年の夏、じいちゃんが死んだ。
どうやら急性のものだったらしい。
近所の人の家にいつも家から滅多に出ないさくらが来て鳴くものだから、慌てて見に行くと、じいちゃんが倒れているのが見つかったらしい。
本当に突然の事で、俺にとっては葬式なんて初めての事だったけど、父さんが落ち込んでいる代わりになんとか助けになろうと慌ただしくしていた。
葬式や諸々の手続きが一段落した頃、俺は縁側でひとり座り込んでいた。
一年の間、じいちゃんの家には何度も遊びに来た。最後に会った5月も元気そうで、「今年は茄子も育てている」なんて話していたから、また手伝いに来ると約束もしていた。
すると、隣で「にゃあ」と声がした。
見ると、人が座る場所を3つほどあけて、さくらが座っていた。
葬式から今まで、ほとんど姿を見かけなかった。それは気まぐれだったのか、それとも…。
「ひとりに、なっちゃったな。」
さくらは、鳴かない。俺は、さくらを見つめる。さくらが今、何を考えているのかは分からない。でも、出会ったときは子猫だったのに、今は随分大きくなったのは確かだった。
「さくら、うちに来るか?」
そういうと、さくらは返事をしない代わりに、俺のところに近寄ってきて、膝の上に飛び乗った。
俺はさくらの背中を優しく撫でて、父さんに相談しに行く為にさくらを抱いて立ち上がった。
なんだか、もういないじいちゃんも、俺とさくらを見守ってくれている。そんな気がした。