芝生に寝転がると、雲ひとつない青空だった。
でも、個人的には、雲が少しあるくらいの空が、私は好きだった。
この季節にはよくある天気だけど、雲がなさすぎると正直外に出るのは億劫になる。じゃあ、なんでそんな天気の中芝生に寝転がっているか。
それは、私が今仕事から逃げてきたからだ。かといって、家に帰る気分でもない。だから、目についた人気のない芝生広場に立ち寄った。
普段はこんなことはしない。虫は得意じゃないし、服が汚れたら洗濯が大変そうだし。でも、今はそんなことどうでも良かった。
少し生暖かい風がふく。私は一度起き上がって、鞄の中から水筒を取り出し、思い切りあおぐ。体の中に冷たい液体が流れて、少しだけスカッとする。
そして、もう一度寝転がる。もう、風はやんでしまっていた。深呼吸をすると、先程の冷たい液体を上書きするような空気が体に流れた。
ぼんやりと、青を眺める。その中に、あるかどうかも分からない白を探して。そんな不毛なことをしているうちに、だんだん瞼が重くなってくる。
抗おうとは、考えなかった。今はただ、追われているものから少しだけでも逃げたかったから。
目を覚ます。どうやら、夢を見ていたらしかった。
目の前には、空。黒い大空に、点々と輝きが散っている。
起き上がると、ちょうど冷たい風が吹いてきて、思わず体を震わせた。夢の中の季節とは違うのだから、ずっとこうしていては風邪をひいてしまうだろう。
鞄の中から、コンビニで買った温かいレモンティーを取り出す。仕事先で開封したカイロと一緒に入れていたからか、完全に冷たくはなっておらず、心ばかりの温かさを保っていた。
ちびちびと飲んで、息を吐き出す。その息は、白く染まり始めていた。
レモンティーを鞄にしまって、代わりにスマホを取り出し、立ち上がった。スマホはチカチカと点滅して、誰かからの着信を知らせていた。
きっと、仕事関係だろう。相手を見なくてもなんとなく分かる。でも、あの時のように逃げようとは思わなかった。
きっと暫くしたら、また電話がかかってくるのだろう。だから、それまでは少しだけ休ませてもらおうか、なんて考えながら、私はゆっくりと歩き出すのだった。
12/21/2024, 8:14:16 PM