【 大空 】
『ねえ、お母さん。何で鳥は飛べるの?』
『羽があるからよ。何か気になるの?』
『だってね――』
そこで夢は途切れ、目が覚めた。
近所の森の散歩道、母に手を引かれながら歩いた記憶だ。
(懐かしいなぁ…久々に夢見た)
あれから二十数年、今では自分が親になった。
「ねーママ。鳥さんはどうやって飛ぶの?」
「手の代わりになる羽を使うんだよ。気になるの?」
「お空を飛べたら天国のばあばに会えるでしょ!」
唐突に、今朝の夢が蘇る。
続きはそう、これだった。
『だってね、お空のお父さんに会いに行きたいから!』
【 寂しさ 】
寂しがり屋だという自覚はある。
だから、いつも誰かと一緒にいたい。
プライベートだって、仕事だって、一人は苦手だ。
もちろん、誰にも邪魔されない時間も、時には必要だ。
時の経つのを忘れて、趣味に没頭するのもいい。
それでも、やっぱり人の存在が恋しくなるんだ。
付かず離れずの距離感を保って、傍にいてほしい。
ワガママ、自己中と言われるかもしれない。
それでも、やっぱり―――
ただ、それは本当の孤独を知らない頃の話。
自分のことを一欠片も知らない人間に囲まれていては、
孤独以外のナニモノでもない。
自分に向けられる、ほんの少しの愛情も無ければ、
ただ虚しいだけ。
だからどうか、寂しがり屋でいるために、愛して欲しい。
【 雪を待つ 】
春の精として生を受け、数多の季節を過ごしてきた。
寒い冬を乗り切れば、新たな花を咲かせることになる。
(今年は暖かいなぁ…)
あまり気温が高いと、体内時計が狂ってしまう。
早く寒波がやって来ないかと、首を長くして待っている。
「やぁ、こんにちは!」
冬を運ぶ風に乗って、将軍はやって来た。
「今年は随分とのんびりな登場ですね」
「手厳しいな。でも、一緒に雪ん子も連れてきましたよ」
小さな雪の精は、将軍にわらわらとくっついて、
こちらの様子を窺っている。
「おチビさんたち、さっそくお仕事頑張ってもらうよ!」
さぁ、しっかり冬を過ごして、春に備えようじゃないか。
【 イルミネーション 】
街中で、耳馴染みのある曲が引っ切り無しに流れている。
忙しなく雑踏を歩く人々も、足は軽やかに歩いていく。
街路樹や建物は、色とりどりの電飾を施され、
道行く人を楽しませる。
皆が浮かれるこの時期に、独り身の寂しさを憂うばかり。
すれ違うカップルたちに嘲笑われている気さえする。
パートナーがいるから何だというのだ、と強がっても、
傍らに誰もいないのは、やはり物足りない。
そんな、やさぐれかけた心で見つめる先には、
ぽつんと小さな雪だるま……の電飾だ。
電池で光る、おもちゃ。
誰かの忘れ物だろうことは分かる。
それが今、心の隙間を埋めてくれているのは、
自分と、この雪だるまにしか分からないだろう。
【 心と心 】
君と、もっと深く繋がれていたら、
こんなことにはなっていなかったんだろう。
独りになった今、甘えっぱなしだったことを猛省してる。
二人ともが口下手で、その分察するのは上手だった。
些細な変化で機嫌に気付いたり、不調だって見抜けた。
だから、言葉の重要性は、全く考えていなかった。
君から告げられた別れの言葉も、脳が理解するまで時間がかかった。
あまりにも似た者同士で、同族嫌悪のような思いは、
言葉でしか払拭出来ないのを、今更知ったんだ。
やり直したいなんて戯言は言わないよ。
だからどうか、君が健やかでいられますように…。