【 どこへ行こう 】
少しだけ、戸惑っている。
行き先など決めず、気ままに歩くのが楽しみで、
一期一会の瞬間が面白くて、知らないものを知りに行く。
それが僕の日常だった。
それなのに。
足元には今、ふわふわの毛玉……もとい、子猫がいる。
気付いたらいて、僕と目を合わせて動かない。
互いの瞳だけが視界を奪うような見つめ合いをして、
吸い込まれてしまいそうな感覚を持って。
それを察したのか、子猫が歩き出した。
僕を誘うように数歩前を行き、時折振り返って確認される。
なんてこった。
僕の日常、生まれ変わったみたいだ。
基本は変わらないけれど、キミがいる。
さて、今日はどっちに足を向けようか。
【 高く高く 】
人の世の遥か下、地底が生活圏の俺。
たまに堕ちてくるヒトをいたぶるのが唯一の楽しみだ。
ある時堕ちてきた奴は、変わり者だった。
恐怖に怯えるわけでも、パニックで喚くわけでもない。
自分の置かれた状況を理解しているのか、冷静だった。
「お前、何でそんななんだ?」
「長く生きてきたんだ、今更何を騒ぐというんだ」
興味が沸いた。
変り映えのない日常を彩るかのように、
博識なソイツとの会話は止まることを知らない。
だが、相手は所詮ヒト。
堕ちてきても、いずれは朽ちる存在だ。
「お前、もう死ぬのか? 俺がつまらなくなるだろ」
「人生最期にまで貴重な体験だった。ありがとう」
ヒトは、こんな生き物だったか?
俺から害を為さないからといって、
この状況で平然としていられるものか?
これほど魂の気高い生き物は、俺の永い生涯で初めてだ。
願わくは、俺もアイツと同じ高みに逝けますように…。
【 形の無いもの 】
誰か、僕を見つけて…
僕は何も見えないし、誰からも見えない。
僕は触れないし、誰からも触れられない。
色も匂いも何も、無い。
ただ、確かに『僕』はいるんだ。
きちんと存在してる。
存在の定義をするならば、僕は『存在』自体が危うい。
証明する方法なんて、僕が知りたいくらいだ。
きっと『君』と思うモノの近くにいるはずなんだ。
見えないから確証はないけど、感じる。
『君』を守るのは僕の役目だということも認識してる。
だから、お願い。
僕を見つけて…!
もうカラダを持たない僕の、せめての願いだから…
【 ジャングルジム 】
いつも冒険してる気分になれる場所。
だって、通り抜ける度に、見える景色が変わるから。
迷路のような構造を、正規の通り道に沿って行くもよし。
外側を、ランダムに登っていくもよし。
中から抜け出してみるのも面白い。
どう通ってみても、同じ景色になることは無い。
上を見上げてごらん?
さっき見た時と、雲の形も空の色も、全部違うよ。
横を見て?
草や木の見える角度が変わってるでしょ。
ねぇ、今キミは困ってない?
目線変えてみるために、一緒に登ろう!
【 無色の世界 】
ボクは、いわゆる透明人間らしい。
誰にも見つからず、あらゆることができる。
でも、誰かが言っていた。
『透明人間は誰にも見えないけど、自分からも見えない』
そう。
ボク自身、周りが見えない状態にある。
まるで、存在そのものがないかのように、何も見えない。
これが本当の孤独ってやつだと、本能的に知ってる。
ねぇ、気付いて?
ボクはここにいるんだよ!