るった

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11/7/2023, 8:58:44 AM

【 柔らかい雨 】

ただ死にゆくだけと、諦めていた。

生き長らえるために逃げた地は、乾ききっていた。
およそ、生き物の住まう環境とは思えない場所。
敵がいない代わりに、生きるのも難しい。

何のために、今、ここにいるのだろう?
何のために、生かされているのだろう?

諦めたはずの命は、己の意思を問わず、
直向きに鼓動を打ち続けている。

ふと、頭上から降り注ぐものに気づく。
恵みの雨か、いや、殺戮の雨だ。匂いで分かる。

あまりにも優しい、毒の雨。

呆気ない終わりだと思う反面、幸せな終焉を喜ぶ。
なんて、暖かい雨なんだろうな。

11/6/2023, 5:06:09 AM

【 一筋の光 】

その日は、いつも通りの1日だった。
強いて言うなら、家族は揃って旅行中というくらい。
ひとり飯が淋しいなんて、実家暮らしのワガママだが、
家族のありがたみを痛感した。

ベッドに入って、意識を手放しかけた時。
激しい揺れに襲われて、起き上がるのもままならない。

木造の年季の入った我が家はあっけなく崩れて、
挟まれている体は痛みを訴えている。
命の終わりは呆気ないものだと、他人事のように思う。

そんな瞼の裏に、明かりを感じた。
微かに、呼ぶ声も聞こえる。

待って!そっちに行きたい!

それだけが、今の自分の拠り所だ。
他には何も考えられない。

たとえ、空へ続く道筋だったとしても…。

11/5/2023, 1:54:15 AM

【 哀愁をそそる 】

夕日が奇麗に見えると人気の丘に、貴方と二人、
誰もいない時に出掛けたね。
思いが通じ合ってからのパートナー生活の中で、
そこだけは、人気が出るより前からの常連だね。

丘は、ただ小高いだけで周りには何もない。
広い公園の一画だけど、遊具もほとんどなくて。
子供よりも、散歩する大人向けの場所だ。

だから、のんびり過ごしたい時なんかに、よく訪れたね。
ゆっくり歩き回ったり、芝に寝転んだり。

喧嘩した時もよく来たっけ。
頭が冷えた頃を見計らって、迎えに行ったりもした。

今も、一人になりたい時には必ず寄るんだ。
貴方と過ごした思い出の場所だから、
面影を追いかけたくて。

さすがに、誰もいないタイミングはほとんどないけど、
二人で見てきた景色は、目の奥に焼き付いてる。

貴方に、会いたいな…。

11/3/2023, 1:19:12 PM

【 鏡の中の自分 】

自分の顔がキライ。
大きな瞳も、高い鼻筋も、魅惑的な唇も、何も無い。
かといって、理想の顔に作り変える勇気も無い。

周りは皆、個性に溢れたステキな顔をしてる。
表情豊かで、生を謳歌してるのが伝わってくる。
そんな中に自分もいるけど、本当にいていいのかな…?
自分のことを、皆は邪魔に思わないかな…?

「ワタシはキミの顔、好きだな」

本当に…?

「だって、どんな顔も作り出せるじゃない」

…そうか、そうだ。そうなんだ。
鏡を覗き込んでも何も無い、何のパーツも存在しない顔。
変える必要なんてないんだ。
好きな時に、好きな顔にすればいい。

のっぺらぼうで良かったと、心から思えたよ。

11/3/2023, 1:55:14 AM

【 眠りにつく前に 】

なかなか寝つけない?
じゃあ、面白い話を聞かせてあげよう。

見えるようで見えない世界のお話。

あるところに、魔王討伐を控えた勇者がいました。
来たる日に備え、装備などの準備を整えています。
次第に高まる緊張感で、眠りの浅い日が続きました。
ある日、どうしても寝つけない勇者は、剣を取り出し、
素振りすることにしました。
ほどよく疲労したところで再び寝床へと向かうと、
宿の主人が待っていました。
勇者のために、温かい飲み物を用意してくれたのです。
それを飲み干すと、急に体が重くなり、眠気が襲います。
その時、宿の主人が不気味な笑みを浮かべていたのを、
勇者は見逃しませんでした。
耐え難い眠気に苛まれながら、剣を支えに堪えます…。

それからどうなったかって?

主人が魔王だったんだよ。
だから、勇者は食べられてしまったんだ。
可哀想にね…。

怯えなくても大丈夫だよ。
ほら、お前も勇者のように食べてあげるからね…

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