【 永遠に 】
この気持ちは墓場まで持って行く。
そう決めて、貴方の側にいることを最優先に生きてきた。
貴方に想い人ができても、喧嘩しても。
常に『親友』という名の特等席を独占してきた。
でも、限界は来る。
側にいるからこその、難しい立ち位置。
苦しくて辛くても、吐き出すことは許されないのに。
だから、気持ちは告げずに、記憶に残ってやろうと思う。
思い返せばたくさんの思い出が鮮やかに再生される。
それを抱えて、葛藤するこの世界から旅立とう。
そんな気持ちは、筒抜けだったのか?
貴方が先に逝ってしまうのは、想定外だ。
同じことを貴方が考えていて、先に旅立つなんて。
悔しいな。
初めて通じたこの思いは、来世まで持ち越しじゃないか。
【 理想郷 】
夢見るだけなら、どんなことも自由だ。
獄中から見上げるしか無い立場では、
それが唯一の支えでもある。
なぜこんなことになったのだったか。
声高に平和を叫び、大義名分をかざして行動した結果、
周りには無数の事切れたヒトを転がすことになった。
全ての人の幸せを願い、望みのものは手に入ったのに。
捕らえられて、己の命の限りを知らされて。
この後作り上げるはずだった世の中を見ることなく、
無駄に散る。
俺の夢見た世界はどこへ行った?
誰が作り上げるつもりだ?
今ようやく気付いた。
神の世界を、俺なんぞが変えられるはずもないのだ。
完全な形に帰結したのが、この世の中だったのだ。
【 懐かしく思うこと 】
某漫画にあった近未来が、現実になった時代。
人は機械の体を持てるようになっていた。
生命の誕生すら、もはや装置で行われている。
文献では『海』という大量の水が眼前に広がる光景に、
機械の体がむず痒く感じた。
機械なのに、と言いたいところだが、
人であることの証明のため、感覚は残されている。
だからなのか?
ただ貯まって波打っているだけの海なのに、
なぜかむず痒く…いや、心がざわつくのは。
海とやらの知識も何も無いのに、
一体どこから湧き上がるのか。
きっと、『私』というヒトの遺伝子に組み込まれた、
人間の記憶なのだろう。
そう納得できたら、不思議とざわつきが収まった。
こうして、受け継がれるものなのかもしれないな。
【 もう一つの物語 】
今でこそ表に出て過ごせているが、
以前は独り、暗闇に漂っていた。
声は聞こえても話しかけることはできないし、
光など無く何も見ることができない。
ただ、記憶はあった。
家族という名の支配者に囲まれて、
躾という名の暴力を受ける。
それらは私の記憶だが、経験ではなかった。
あまりにも痛ましい体験は、もう一人のワタシのものだ。
表立って全てを受け止め、私を守ってくれた唯一の存在。
家族を失って初めて、私は外に出た。
ワタシは代わりに閉じこもった。
殺人者の汚名を被らぬよう、配慮してくれた結果だ。
ありがとう。
私はワタシの人生を続けるよ。
【 紅茶の香り 】
温かいお茶の香りは、思い出の鍵だ。
小学生の頃、一番仲良しのあの子の家にお呼ばれして、
初めて飲んだ。
苦いな、という印象だったが、砂糖を入れ忘れただけだ。
中学生になると、好きな子とペットボトルを買った。
ミルクティーは、とても甘かった。
高校では皆してレモンティーを。
大人気分を味わったものだ。
オシャレなフレーバーティーを楽しめる歳になって、
当時の仲間たちと語り合う。
思い出のお供に、一杯の紅茶はいかが?