【 もう一つの物語 】
今でこそ表に出て過ごせているが、
以前は独り、暗闇に漂っていた。
声は聞こえても話しかけることはできないし、
光など無く何も見ることができない。
ただ、記憶はあった。
家族という名の支配者に囲まれて、
躾という名の暴力を受ける。
それらは私の記憶だが、経験ではなかった。
あまりにも痛ましい体験は、もう一人のワタシのものだ。
表立って全てを受け止め、私を守ってくれた唯一の存在。
家族を失って初めて、私は外に出た。
ワタシは代わりに閉じこもった。
殺人者の汚名を被らぬよう、配慮してくれた結果だ。
ありがとう。
私はワタシの人生を続けるよ。
10/29/2023, 10:14:04 AM