【失恋】
「思えば、失恋みたいなものなのかなぁ」
フミヤは、長年勤めていた会社を今年初めに突然辞めた。友人から理由を問われ、あらためて考えたときに出てきた言葉が『失恋』だった。
出会いは、ブログで見た1枚の写真だった。会社の全景写真の隅に、手書きで「スタッフ募集中」の文字が添えられていた。その文字に一目惚れしたのだという。すぐさま、応募の連絡を入れて面接、そして採用へとつながった。
会社では、さまざまな仕事を担当していた。中でも意外と多かったのは、あのブログ写真で見たような手書き文字を書くこと。自分が一目惚れした文字の書き手である前任者にならい、日々のSNSに添える一言や季節の便りなどあらゆることを自分の文字で表した。
数年間、忙しくも楽しく仕事を続けていたが別れは突然やってきた。フミヤが勤めていた支社が、業務再編で本社と移転統合されることとなった。もし、会社から要請があれば本社への異動も検討するつもりだったフミヤだったが、そのような話は一切なかった。
「フラれたんだよなぁ、結局」
フミヤは天井を見上げて一言呟いた後、話を続けた。
「俺ね、あれだけ世話になった会社だし、まだ愛着もあるんだけど…今は正直嫌いなんだよ。SNSも極力見ないようにしてるし。これからまた気持ちは変わると思うけど、今は「嫌いだ」って思う自分自身も認めなきゃって思ってるんだ。そうでないと、フラれたこと自体を自分の中で認められないから」
「でも、恋の終わりって引きずるんだよなぁ」と言いながら、フミヤの表情は話し始めたときよりどこか晴れやかに見えた。
次の恋の始まりは、意外と早いかもしれないーそんなふうに感じさせる表情だった。
【梅雨】
梅雨どきは、自宅にいる時間が長くて
お昼は手軽な即席め〜んってこと、
ありがちですよね?
でも、カップ麺1個じゃ何か物足りない…
これもまたありがちでしょ?
そんなあなたにお届けしたい!
【チカラがワクワク 力杯麺】
材料は、どこのご家庭にもよくある
即席カップ麺とパック切り餅&熱湯
5ミリ程度にスライスした切り餅を
フタを開けたカップ麺の中にin!
あとは表示された量の熱湯を入れ、
指定された時間を待つのみ。
たったこれだけで、お餅も柔らかくなって
餅同士まったくくっつきません!
これはなかなかの感動もの。
提案者である母と私は、これにハマって
最近は週1ペースで食べています。
誰?「カロリーが…」なんて言ってるのは。
「美味いは正義」なので全てに勝ります。
1度お試しあれ♪
【ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。】
それは、毎日ここに来ては
決して短くはない文章を書いている私
物凄い速さで追ってきているのは
巷で流行るスピード重視のSNSだ
追い込まれたくなくて
巻き込まれたくなくて
ここにきているはずなのに
いつの間にか自分で自分を
追い込んで巻き込んで焦らせて
それでもなお書き続ける日々
決して出来の良い日ばかりじゃない
むしろ消化不良のことも多い
それでもなお必死に走り続けるのは
走り続けた先の景色を見たいから
上出来なのか不出来なのか
今日もまた判断がつかないまま
まだ見ぬ景色に向かって
私は走り続けている
たぶん明日も、明後日も、きっと。
【ごめんね】
学校からの帰り道、見覚えのある後ろ姿を見つけたので声をかけた。
「母さん、今帰り?」
「あぁ、おかえり。今、そこのスーパーで野菜が大安売りでね〜。ついでに牛乳も切らしてたから買ったらこんなことに…」
母の両手には、パンパンに膨らんだ買い物袋がぶら下がっている。
昔から母はこういう人だ。
とても自らのキャパでは抱えきれないものを、「母だから」という理由で1人抱え込もうとする。それは日々の買い物に限らず、父が他界してから一時が万事この調子だ。
「持つよ、ほら」
「いいわよ〜、これくらい。母さん、まだ若いんだから」
「こんなところで息子相手に若いアピールしてどうすんの。いいから、ほら」
半ば奪い取るようにして持った母の荷物は、運動部の俺でも結構腕にくる重さだ。たまたまこうして手伝えるけど、母だけならどうなっていただろうか。
「ごめんね、重いもの持ってもらっちゃって」
母は、そう言って少し後ろを歩いた。家のことを手伝ったとき、すぐに「ごめんね」と言うのも昔から変わらない。
「あのさ、そういうときは「ごめんね」じゃなくね? 「ありがとう」の方が俺嬉しいんだけど」
母の方を向くことなく、ずっと思っていたことを告げた。しばらくして振り返ると、母はその場に立ち止まっていた。慌てて駆け寄ると、母は一瞬顔を隠したがすぐに笑顔を向けた。
「そうね。いつもありがとうね。今までもこれからもず〜っとず〜っとありがとうね」
今まで抱え持っていた荷物を全て手放したような、すっきりした笑顔だった。
「うん、やっぱそっちがいい」
その瞬間、俺の中の「ごめんね」はすべて「ありがとう」に置き換わった。ようやく、ここから母と対等になれるのかもしれない。そんなふうに思いながら、赤く染まる空の下を母と2人並んで歩いた。
【半袖】
半袖を ひと夏ばかりと 思うなかれ 大晦日でも 通常着用
悲しいかな、この句は実話である。我々の仕事は、大小さまざまな荷物を日々取り扱っている。暑い夏はもちろんのこと、秋から冬にかけて寒さが増す季節でも、長袖のシャツを着る気にはなれない。ゆえに、1年の最後の日であっても半袖Tシャツは欠かせない。
周りからは、様々な意見がある。見ていて寒々しいとか、季節感がないとか、元気だねーとか、小学生みたいだねとか…総じて褒められてはいない。むしろ、不評であると思われる。
というわけで、最近は折衷案としと「半袖Tシャツの上にカーディガンを羽織る」方式を採用している。でも、長年半袖で仕事していた習慣というものはなかなか抜けない。羽織っていたはずのカーディガンが、秒で行方不明になるのは日常茶飯事だ。
仕事からの帰り道、同じく冬でも半袖姿の運送業の兄さんたちを見ると思わず応援せずにはいられない。もちろん、長袖であっても半袖であっても誰かのために働く人たちは皆素晴らしい。服装をはじめ、それぞれが自分の働きやすいスタイルで仕事ができればそれでよいのだと思う。
ちなみに、現在抱える深刻な悩みで一句。
Tシャツを 新調したいが 値が上がり シーズンオフまで 我が待つ身かな