『おい、お前が新しい隊員か』
福地に引き抜かれ猟犬本部に来た初日、
最初に声を掛けてきたのは汗臭い匂いの男だった
「汗臭い……えぇ、そうですよ。貴方が誰だか存じませんが風呂ぐらい入って来たらどうです?」
普段通り、悪態を付いてやる
然し、心音は変わらず不快を表したりしなかった
寧ろ、面白いものを見つけたような、
わくわくとしているようなそんな心音で
此方が面食らってしまった
『凄い顔をしているが…大丈夫か?腹でも壊したか?』
いっちょ前に嫌味かと思ったがどうやら本気で心配しているようだ
「いえ、元々こう云う顔ですので」
そう言うと
『そ、そうか…それは悪い事をした』と返ってくる
「…… そんな訳無いでしょう、莫迦ですか💢」
喧嘩を売っているんだろうか?
取り敢えず一発ぶん殴ってやろうかという衝動を抑え、通り過ぎようとすると腕を掴まれた
『莫迦ではない、俺は末広鐵腸と云う。
お前の名は?出来れば漢字も教えてくれると助かる』
「条野採菊と言います。
採る菊で採菊ですよお莫迦さん」
『そうか、採菊と言うのか』
「なんか馴れ馴れしくてむかつくので名字でお願いします」
『む、、分かった…
では俺の事は鐵腸と呼んでくれ。之から相方として宜しく条野』
「はい、宜しくしたくはありませんがお願いします…って相方ですって??」
この男は何を言っているのだろうか、と聞き返す
『嗚呼、相方だ。お前と組むように隊長から仰せ仕った』
…何を考えているんだろうか、入って早々相方を
指名して組ませるとは
真逆、信用されては居ないのか
そんな事をぐるぐる考えていると、前の男が動いた
『そんなに難しい顔をするな。皆の足を引っ張らせないようにするから』
ドヤ顔が見えるような言いぶりでそう放つと、
頭をわしゃわしゃと撫でてくる大きな掌
思いの外優しい声色と、
体格に見合わぬ優しい手付きで不覚にも
心拍数が上がったのを感じた
慌てて彼から離れると、
『撫でられるのは嫌いだったか?猫のようでつい』
と言われ、心拍が上がっている事には気付かれていないらしくひとまず安心する
『俺はお前が気に入った。之から仲良くしてくれ』
楽しそうにそう言って去って行く姿を見て
不思議と不快感は無く、ただ自分の頬にじわじわと熱が集まるのを感じた
🍐🍮 てつじょ
お題 : 初恋の日
『明日、もし世界が終わるとしたら
何をして過ごしますか?』
急に投げられて来た問いに思わず困惑する
だって、現実主義の固まりみたいな彼がそんな事を
言うなんて想像もつかなかったから
「そうだね、何をして過ごそうかな」
そう言いつつ、ちらっと彼を盗み見る
何時も通り、窓辺の日が当たる場所で椅子に腰掛け
本を読んでいた
本当に何度見ても絵になる光景だと思う
彼の美貌は男女構わず魅了してしまうもので、
当然僕も惹かれている
然し、友人にそんな思考を悟られる訳にもいかず
ずっと隠していた
「君と、二人きりで」
言いかけて、ふと言葉を止める
これじゃあ彼に気があると言っているようなものだろう
視線を感じ、彼の方を見ると
紫水晶のような瞳が真っ直ぐ僕を見据えていた
『二人きりで、どうしたいのですか?』
貴方の事など分かりきっているのですよ、とでも
言いたそうなその顔に押され
「ただ、1日中一緒に居たいな」
と呟く
こうなると止まれないもので、
彼の元へ歩いて行っては腕を掴み、接吻をした
「僕、今迄言わなかったけど
君が好きだったんだよ」
今の接吻だって、君に殺される覚悟でしたものだ
でも、まだ僕は生きている
じゃあ、君も…?
歯止めが聞かなくなり
雨のように接吻を降らす僕を咎めもせず、
ただじぃっと見つめるその顔には微かに微笑
『えぇ、知っていました。
そして貴方が伝えてくれる日を待っていました』
満足そうに言うと、君は口の端を上げ
普段見せないような柔い笑顔を見せた
ゴードス 🕊🐭
お題 : 明日世界が終わるなら
「Есть ли в этом мире бог?」
ふと、思い立って聞いた言葉は思っていたよりも部屋に響いた
『………』
暫し黙ったまま見つめる紫水晶の瞳が暗闇でぼんやりと光って
『Бога нет』
妖しい笑みを浮かべ囁いたドス君は、僕を押し倒してそっと肌に触れてくる
『ふふ、何故そんな事を聞くのですか?貴方は神に興味等無いでしょうに』
細い指先でつぅっと腹をなぞり、そう問いてくる親友にドキッとし、思わず躰を捩らせながらも
「君が毎日祈りを捧げているから気になって」と答えた瞬間、唇に柔らかいものが当たった
『神の事等考えなくていいのです。此の世は平等、何もしなくても神は誰にでも微笑みます』
「で、も」
驚いて裏返った声が出る。
くすり、笑ったドス君は続けて
『但し、貴方に神は居ません。手を差し伸べる相手も居ません。貴方はずっと一人なのです。』
『あゝ、そんな顔をしないで下さい…僕が居るでしょう?』
『僕が貴方の中のルールであり生きる意味、救世主【メシア】なのです…』
一気に畳み掛けるようにそう放つと、また唇に接吻を落とす
最近の彼はずっとこんな調子で
でも、僕に甘いドス君は優しくて魅力的で
「君がルールなのだとしたら、存外悪くないかもしれないね」
そう呟いて、躰を求めてくる彼に身を委ねた
お題 : ルール
ドスゴー 🐭🕊
此頃はずっと雨が降っている
何時もテンションの高い彼でも雨が続くと流石に参ってしまうらしく
『うぇ~…じとじとしてて気持ち悪い…』
と愚痴を溢しながらソファに寝転がっている姿が視界に入る
何時もの煩さは何処に行ったのか、あまりの変わりように少し笑ってしまう
『あ、ドス君笑ったでしょ!珍しい!もっと笑ってよ~!』
しまった。そう思ったがもう遅かった
先程のぐだりは何処へやら、じりじり近付いてくる彼に、暇なら喫茶店にでも行くかと問い掛けると目を丸くしたのち
『勿論だよ!君からのお誘いを断る事など出来ないからね!』
と満面の笑みを浮かべる
全く、雨で憂鬱な気分でもその笑顔を見ると
雲間から日が差したように変わる心模様が不思議で仕方が無い
此れが恋だと云うのなら
もう少し隠しておこうと思う
道化の仮面を被った彼の、一番驚いた顔を見るのはぼくが良い
そう思っただけの、ある雨降りの朝
お題 : 今日の心模様
ドスゴー 🐀🕊
ねぇ、何処に行ったんだい?
君は私を置いて死んだりしない。
魔人と呼ばれる程の君なら此の程度、予測出来ただろう…?
君が私を自由にしてくれると言ったから、私は君に付き従ったのに
君が死んでしまったら私はどうすればいい…?
一生、感情と云う名の檻の中で私は踊らされ続けるのか
否、それは嫌だ
私は自由になる為に
感情と云う頭蓋の檻から羽ばたく鳥になる為に
君に自由を縛られたというのに
君を殺せば私は真の自由になれると、そう思っていたのに
君は死んでも尚、私の心を縛ると云うのかい?
なんて強欲なんだろう
私の友人…いや、
僕の、慕っていた相手は
………
君の事だから、僕が慕っていた事にも気付いていたんだろう?
知っていて、其の儘何も言わず逝ってしまったのか
まあ、君らしいけどさ
『好きだったよ』
そう呟くと、抱きしめたぼろぼろの彼の腕にぽつりと雫が落ちた
お題 : 雫
🕊🐀 ゴードス